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SEEDATA
公開日:2018.04.03/ 更新日:2021.06.11

エスノグラフィー(ethnography)

【エスノグラフィーの事例】バンク・オブ・アメリカのキープ・ザ・チェンジとは?

今回はIDEOが行ったエスノグラフィーの事例をSEEDATAアナリストの岸田が解説します。

「小銭を貯める」というメンタルモデルからできたクレジットカード

岸田(以下:岸)「今から10年以上前の2005年、IDEOがアメリカの銀行であるバンク・オブ・アメリカから、預金額を増やすための施策を依頼され、エスノグラフィー調査を行いました。スーパーマーケットで人がお金を支払うところの調査をして、お金が貯まらない人は小さい買い物をしてることが多いということが判明したんです」

-身につまされる話です。ついコンビニに寄って買い物をしてしまったり、ネットでポチっとしたり……小額になればなるほど悩まずに買ってしまうし、小さな買い物はしない日がないですよね。

「さらにレジでの行動を見ていると、アメリカの人々はお金を支払って、1ドル未満の細かいおつりがでると、そのまま募金箱に入れるか、小銭のまま自宅でどこかに置いてしまったり、使わないでいることがわかりました。

じゃあ余ったお金をすべて銀行の貯金に預けられるような仕組みを作ろうということになったんです。いちいち自分で小銭を貯めなくても、端数が自動的に貯金として流れていく、これがキープザチエンジというデビットカードの仕組みです」

-本来なら小銭を自分で貯めて銀行に持って行って……とするところを自動でやってくれるサービスということですね。

 

「はい。もともと、なかなかお金を貯められないという人たちデビットカードをもってもらおうというプロジェクトなんですが、そのカードで支払うと、支払金額が5.25ドルの場合、普通口座から6ドルでおろされ、残った75セントが預金口座に回されるという仕組みです。

このように、買い物のたびにデビットカードで引き落としているだけで、ちょっとずつ貯金できるという機能を持たせたんです」

 

-買い物の際に勝手に端数が貯まっていく、実際に自分のお金が増えるわけではないけれど、日本にもあったら利用したいですね。

 

「お金の総額自体は変わってないけれど、ここに『端数の小銭を貯金箱に入れて貯める』という行動のメンタルモデルが入っていることで、自然に貯金されていくということが受け入れられているんです。その上、実際に家に小銭を持って帰って貯めるよりもはるかに楽で簡単な体験になっている。

人の行動を観察して、メンタルモデルから仕組みを作っていくと、とても自然な動線でサービスを作れるので、初めて手にとるユーザーに理解してもらいやすいんです。それがいちばんエスノグラフィーのパワフルなところといえるでしょうね。

実際にこのキープザチェンジは多くの人に受け入れられ、スタートして半年で250万人、2008年には800万人以上の加入者がいるといわれています」

 

-貯まっていくのがドル未満の端数というところがよかったんでしょうね。私もなんとなく100円以下は端数と考えて切り捨てて考えがちなのですが、1か月の買い物回数を考えるとかなり貯まりそうです!

 

「奥出直人先生も『デザイン思考の道具箱』で紹介してるんですが、まだiPadのない時代、医療現場で看護師さんが使えるiPadのようなデバイスを作ったんです。看護師さんがどういうふうに連絡ノートを使っているかをエスノグラフィーで分析して、そのメンタルモデルを入れたデバイスを作って看護婦さんに渡したところ、数分後には完全に理解してほかの人に教えられる状態になっていたと。

結局、形は違っても、どう認識してどういう行動をするかが全く一緒であれば、人はすんなりと受け入れられるという例ですね。逆にこれがノートを素起こししたようなものでも、メンタルモデルとずれたものになっていてたら、全然使いづらいものになってしまうでしょうね」

 

細々とお金を使うから貯められないのであれば、お金を使うたびに貯金できるようにしようという斬新にみえるアイデアですが、「小銭を貯める」というメンタルモデルの存在を知ると、人々に受け入れられたことも納得です。

奥出直人先生のメンタルモデルのお話はこちらから↓

デザインシンキングとエスノグラフィー②

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