近年、「モノ(製品)ことからコト(サービス)へ」と消費者の求めるものは移行し、「体験」にフォーカスした商品、サービスがヒットをしています。しかし、多くの企業のみなさんがこの「モノからコトへ」の大切さを理解しているものの、いまだ実践できていないのが現状ではないでしょうか。
実際にSEEDATAでも”「モノからコトへ」を始めたいが具体的な手法がわからない”というご相談を受けることが増えてきました。そして、「モノからコトへ」を実践するためにできたのが「サービスデザイン」という手法です。
当連載では、このサービスデザインの考え方から具体的なプロセスまでをわかりやすく解説していきます。第1回目の今回はデザイン思考、サービスデザインの本質とはなにかという点についてお伝えしたいと思います。
サービスデザインとは?
体験を設計し、新たな価値を生み出すための手法
まずは、そもそもサービスデザインが何故こんなに重要視されているのかについてご説明します。
サービスデザインとはその名前のとおり、「サービス」を「デザイン」するということです。ここでいうデザインとは見た目のグラフィックだけでなく、中身、コンテンツのデザインの設計、開発が含まれています。
「サービス」という言葉からはITサービスや接客サービスなどを思い浮かべる方も多いかもしれません。「サービス」の定義は様々ですが、本連載では分かりやすいように、サービスを「体験」と定義し、サービスデザインとは「体験を設計し、それを通して新しい価値を生む手法」と定義します。
サービスデザインが求められている背景として、以前はいかに良いものを作るかという「モノ(商品)」にフォーカスされていましたが、技術が発達し、モノ自体はどんどん使いやすくなり、モノを通してどんなことが達成できるのかという、より高次な目的、つまりどういった成果が得られるのかということをユーザーは求めるようになってきています。
また、昨今、デザイン思考という考え方は非常に注目を集めていますが、デザイン思考をすれば必ず良い新規事業や新商品開発ができるというような風潮は誤解を孕んでいます。
デザイン思考というのは名前のとおり、 デザイナーのマインドセットやスタンスなどを表すものです。
一方、サービスデザインはもっと大きな概念であり、サービスデザインの中にデザイン思考的なマインドセットを内包しています。
サービスデザインには、デザインツール、デザインプロセス、サービス実現のためのマネジメント、または顧客、デザイナー、クライアントなどとの間のコミュニケーションなどが含まれています。サービスデザインの認識、定義も人によってさまざまなので、個人的見解ではありますが、私はサービスデザインのマインドセットのひとつにデザイン思考が入っていると考えています。次回以降はこのマインドセット、デザインツール、デザインプロセスなどにはどんなものがあるのかを深掘っていきたいと思います。
さらに、冒頭にサービスデザインとは「体験を設計し、それを通して新しい価値を生む手法」説明しましたが、この「体験」もミクロなものからマクロなものまで様々な意味を含んでいます。
例えばミクロな体験としては、UI、UXの使いやすさなどがあげられます。またマクロな体験としては「ユーザーの人生全体を豊かにするためにどんなものが必要か」といったことまでが考えられます。この両方の観点を兼ね備え、魅力的な体験を設計していくのが、サービスデザインの特徴です。
サービスデザインの事例:
スターバックスはコーヒーよりもサードプレイスという体験にフォーカスしている
一番分かりやすい事例として、みなさんもご存知のコーヒーチェーンである、スターバックスのサービスデザインをご紹介します。
現在のスターバックスは、コーヒーはあくまでサービスの構成要素のひとつであり、体験に重きを置いているというのは周知の事実ではないでしょうか。
もし、スターバックスがモノに焦点をあてていれば、ひたすらコーヒーの味を改善し、いかによりおいしいコーヒーを作るかにフォーカスしていたはずですが、今のスターバックスはそれ以上に、サードプレイスというコンセプトのもと、スターバックスという場所をいかによくするかという体験にフォーカスしています。
また、サービスデザインでは、ユーザーの体験だけではなく 、とくに接客業の場合、ユーザーのためによりよい接客をするには、従業員も楽しく仕事ができていなければいけないという考え方をします。そのため、サービスデザインにおいては、企業はユーザーだけではなく従業員に対してもサービスを提供していると考え、スターバックスではマニュアルや哲学を作ることで、従業員の体験がより魅力的になるよう工夫を施しているのです。
従業員も利用者も全員にとって価値がある、双方がハッピーになれるようなものを作るのがサービスデザインの特徴といえます。
また、ユーザー側もとくにコーヒーが飲みたいわけではなく、あの空間にいたい、あの空間で仕事をしたい、あの空間で人と話したいという、より高次の目的を求めて集まってきているという点もサービスデザインのポイントです。
その結果として、Wi-Fiのような新しいものも、いち早く導入されていったのです。かつてはみんなオフィスで仕事をしていましたが、ネット環境が普及してどこででも仕事ができるようになり、そこで「カフェでパソコンが使えたらいいのに」と思ったトライブ的な人が現れたのです。
「コーヒーを飲みながら仕事をしたい、カフェで仕事を効率よく進めたいという人がいるのではないか」という新しい課題や欲求を見つけてWi-Fiを導入した、これはまさにサービスデザイン的な考え方といえるでしょう。
日本流サービスデザインの事例:
ライザップはゴールに直結する価値を提供している
次に日本におけるスポーツジムのサービスデザイン事例についてご紹介します。
スポーツジムはこれまで、単に筋トレやランニングをする場所でした。これをサービスデザインの文脈にする場合、より高次の目的を考える必要があります。彼らが筋トレやランニングをする目的は、「痩せたい、筋肉をつけたい」ということです。しかし従来のスポーツジムはその目的に対し、不十分な価値しか提供できていませんでした。
そこで登場したのが、スポーツジムの設備だけではなく、トレーナーをつけて結果にコミットするというサービスを作ったライザップです。「痩せたい、筋肉をつけたい」というゴールに対してダイレクトな価値を提供し、サービスデザインとして成立している日本ならではの事例といえるでしょう。
ゴールを中心に考える「ゴールオリエンテッド」という考え方で、本当にその人がしたいことは何なのか、目的はなんなのかということを考えることがサービスデザインの第一歩です。スポーツジムの場合、ただ設備を提供されるだけでは、「痩せたい、筋肉をつけたい」という目的があっても人は途中で諦めてしまいます。そこで挫折することを防ぐためにライザップはサービスとしてトレーナーとプログラムを提供したのです。
「モノからコトへ」「商品から体験へ」という概念は、今後も私たちの生活のすべてに関わってくるでしょう。
「体験」というのは人々の「人生」そのものなので、本質的な意味で、人々の生活、人生をより豊かにしていくものが今後も求められていきます。
「どうすれば人間にとってよりよい生活を提供できるか」という問いに答える手法がサービスデザインであり、ユーザーは商品だけでは満足できなくなっている、目的を達成できなくなっている現代だからこそ注目を集めているのです。
しかし、日本ではサービスデザインを実践できる人や企業はまだ少ないのが現実です。デザイン思考は考え方でありマインドセットなので、クリエイティブコンフィデンス=創造力に対する自信は重要ですが、本を読んだり話を聞いただけでは実行できない、やはり行動に落とすにはプロセスが必要なのです。
また、現在のサービスデザインは時間がかかりすぎたり、デザイナーの経験や勘によるところが大きいという問題を抱えています。これを再現性高く、一般の企業の方々が取り入れ実際にビジネスとして進めていけるような枠組を我々SEEDATAは提供しています。
デザイン思考やサービスデザインの手法、プロセスを踏襲し、独自のプロセスを築き上げ、体系化したものがSEEDATAのトライブ・ドリブン・イノベーションになっています。
サービスデザインを理解することで初めて、モノからコトへ移行することが可能になるのです。
次回はサービスデザイン思考とは何なのかについて掘り下げていきます。
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