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『暴走族のエスノグラフィー』にみるジョブ

本記事では、エスノグラフィーの古典といわれる書籍のレビューから、学問的なエスノグラフィーが確立した研究手法をご紹介し、さらにこうした技法や視点のビジネスエスノグラフィーへの応用の可能性についてご提案します。

様々な調査手法を織り交ぜて解き明かす、「恥知らずの折衷主義」

今回ご紹介するのは、佐藤郁哉が1984年に出版した「暴走族のエスノグラフィー」です。エスノグラフィーとはもともと、文化人類学においてさまざまな「部族」を調査し、実態を明らかにしていく者でしたが、この本で対象となっているのは「暴走族」という「部族」であり、ジャンルとしては社会人類学に位置付けられます。

心理学、社会学および文化人類学を研究バックグラウンドとする著者は、暴走族という現代日本の一「民族」における、暴走行為をはじめとした「遊び」の特徴を、参与観察を基にしたエスノグラフィー調査によって解き明かすという試みを行いました。

この本で特徴的なのは、インタビューや参与観察、アンケート、心理テスト、マスメディア分析等のあらゆる手法のほか、心理学、社会学、文化人類学の各理論の独自の解釈を分析に適用しているところです。その意図として著者は、

「暴走族活動に含まれる種々雑多な『遊び』の特徴は、単なるアンケートでも、インタビューだけでもとらえきることはできないし、また、単一の理論だけでその全貌をとらえることもできない(p.11)」

と語っています。

「恥知らずな折衷主義」と自ら称したこのアプローチは、暴走族青年における「遊び」を「カーニバル」や「模倣」といった既存のカテゴリーに分類するだけの既存研究とは異なり、心理学や社会学などの理論と、青年たちの発言を絶え間なく往復するような手法で、実証的に分析を進めることを可能にしています。

誰が・どの立場で・どのように・なぜ記述するのかというエスノグラフィーにおけるポジショナリティの問い

本書は二部構成で、「祝祭と祭具」と題された一部では、著者が実際に観察した暴走族の青年たちへのヒアリングをもとに、暴走族の慣例やファッションのもつコンテクストの検証を試みています。二部では、「暴走族の神話の形成」と題し、テレビドラマやマスメディアで描かれた「暴走族」と、著者の観察した暴走族青年の声という異なる二つの対象を行き来しながら、「暴走族」の記号性の検証が行われています。

本書がエスノグラフィーの古典として幅広く読まれることとなった背景として、暴走族という、閉鎖的でありながら社会問題的に世間の関心の的となったコミュニティを対象にしたことで、エスノグラフィーのもつ視点の特異性を浮き彫りにしたことが考えられます。

エスノグラフィーという方法論のもたらす観察視点が、いかに一般大衆や、批判的、あるいは同情的な公的機関やジャーナリスト等とも異なる描写を可能にするのか。さらには、読者自身の思い描く暴走族像を比較対象として読み進めることができるため、エスノグラフィーという方法論の特徴を知る入門書に最適といえるでしょう。

こうした描写の視点について、筆者は対象と描き手との関係の違いが起因すると述べています。エスノグラフィーでよく論点となる、「誰が、どの立場から、どんな風に、なぜ記述するのか」というポジショナリティの問題です。

暴走族に対して批判的な立場のマスコミや文献などにおいては、描き手は暴走族に対して局外者(アウトサイダー)の立場に立ち、対象となる暴走族をはみ出し者(アウトサイダー)として描きます。これに対し、暴走族に対して同調・同情的なジャーナリストや暴走族の当事者青年などの視点において、暴走族に対する立場は当事者(インサイダー)または代弁者、同乗者(インサイダー)となります。

本書において著者がとった関係は、上記の二つのいずれとも異なります。著者は本書における調査手段について、暴走族に対して完全な局外者でも代弁者でもない立場をとりながら彼らと「つきあってきた」と表現しています。

「下手クソな京都弁」を使い、カメラを提げて暴走族の集会に参加するといった、身内でも観察者でもない、あるいはその両方を兼ねる人間という立場をとった著者に対し、暴走族たちは「オッチャン」「インタビューマンさん」「カメラマンさん」「佐藤さん」さらには「ツレ」など、さまざまな間柄を表す名前で呼んでいたといいます。

こうした著者のアプローチからは、エスノグラフィー的調査が必ずしも「覆面調査」を意味するものではなく、調査対象者もまた心理学実験のような「被験者」ではないことがわかります。

そしてこの関係性こそが、対象者のとる非言語的な行為の意味を言語化するコミュニケーションを可能にしているといえます。

暴走族をアウトサイダー視する「大衆」でも、心酔・英雄視する「身内」でもない、学問的なバックグラウンドをもちながら当事者コミュニティと対話する「観察者」としての視点の移動性は、青年たちに対し、学問的な仮説をぶつけては修正するプロセスを可能にしています。

「通訳師」としてのエスノグラファー

青年たちの「ヤンキー口調」のような言葉や非言語的・慣習的な振る舞いの意味を、当事者に問いながら社会学的なコンテクストにおいて分析し、「局外者の言葉」に言い換える工程を、本書では通訳の役割に例えて紹介されています。

こうした通訳の役割は、暴走族の「遊び」における快感の言語化において、もっとも優位性を発揮しています。暴走の快感について、「なんと言語化していいかわからない」という当事者にかわり、著者は心理学的な理論と当事者の発言を行き来するようにして言語化を試みています。

「バンバン、ビーンて」「マヒなりかけや」といった青年の発言を、著者は「フロー」という心理学の概念の諸要素に基づいて言い換えていきます。

たとえば、暴走の楽しさとして青年たちが語る「目立つ」という考えについて、それが威圧的、権威的な「見せびらかしたい」という動機よりも、「見てもらう」ことで演技をしているかのように暴走行為に没入できることに起因していることを、青年たちとの会話とフローの構成要素を交互に検討しながら突き止めています。

「派手な外見や暴走行為で目立とうとしている」という客観的な事実描写から一歩踏みこむことで、著者は「目立つ」ことの意義を、「世間に見せびらかすこと」ではなく「誰かに見てもらうという意識をもち、暴走への集中や没入を高めること」として捉え直すことに成功したのです。

本書から見つかったジョブとは?

こうした行為の再定義は、ビジネスエスノグラフィーにおけるジョブ発見のプロセスとしても説明することができます。

「目立つ」という行為において、彼らには「暴走行為への演技的没入を高めなければならない」というジョブがあったといえます。つまり、このジョブを解決するための方法が、「自分が観衆に見られているという意識をもつこと」、すなわち「目立つこと」だったのです。

この場合、彼らが目立つようにとっている行動は、観衆に見てもらうことを強く意識するためにハイヤーされた行為であると考えることができます。

著者自身は調査においてジョブの概念を使用していたわけではありませんが、本書を読み解くにあたり、ほかにもこのようなジョブの発見することができます。

以下に代表的なものをご紹介します。これらはあくまで一例であり、ご自身で読んでみて、ぜひ新たなジョブを発見してみてください。

【ドカヘル(土木作業用ヘルメット)】

暴走族青年にとって、走行時の音による外部環境からの遮断は、注意の集中を助けるほか、暴走への深い没入を促す。そこで彼らは、音が大きく鳴るよう改造したバイクの空吹かしの音を走行中にさらに聞こえやすくするために、耳が露出したドカヘルをあえて着用している。

→ジョブ:暴走行為に強く没入するために、走行中は大きな音で感覚を遮断しなければならない。

【国旗の入ったシンボル】

右翼・国粋主義的な思想には無関心、あるいは嫌悪的な態度を示し、国旗を神聖視することなく上からグループの名前などをかぶせることも厭わないが、「(特攻服は)いかにも暴走しているという感じがする」「(刺繍が入っていると)誇りに思う」といった発言から、彼らは国旗がもたらす集団帰属性を認めており、国旗が(右翼や天皇といった特定のイデオロギーではなく)規律や統率のシンボルであると考えていることがわかる。

→ジョブ:国家のような規律・統率のシンボルを用いることで、グループの秘密結社としての凝集性や帰属性を高めなければならない。

本書からは、このように学問的なエスノグラフィーとして確立した手法が、異なるコミュニティの生活を観察するビジネスエスノグラフィーへの示唆をもたらしているということをご紹介いたしました。

さらに、本書のような古典のひとつの読み方のご提案として、エスノグラフィー的調査からジョブを発見するという、調査の応用可能性をご体感いただけたのではないでしょうか。

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