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SEEDATA
公開日:2018.01.12/ 更新日:2021.06.11

エスノグラフィー(ethnography)

【エスノグラフィーの事例】SEEDATAケース2:病院のエスノグラフィー

今回はSEEDATAアナリストの林さんに、以前SEEDATAの中で行った、がんセンターでのエスノグラフィーから見えてきた、病院で来院者が抱えるジョブと、来院体験の向上させるためヒントについてお伺いしました。

ジョブについてのお話はコチラ↓

【エスノグラフィーの事例】訪日外国人のエスノグラフィー①

【エスノグラフィーの事例】訪日外国人のエスノグラフィー②

ジョブ理論をもちいたエスノグラフィーとは?-SEEDATAエスノグラフィーセミナーレポート②

病院の待合室で散見された行動から発見したジョブ

-まず今回のエスノグラフィーの概要について教えてください。

「はい。4人で大阪のがんセンターに行き、計2日間じっくり院内を観察しました。いろいろな行動とそこに隠されたジョブが見つかったんですが、代表的ないくつかの事例(ジョブ)を紹介します。

まず、院内では袋の中にペットボトルを隠して飲むという行動が多く見られました。院内は1~3階まであるんですが、全面飲食禁止で、水も基本的には禁止という状態だったんです。それで、バッグに半分飲み物を入れたまま、もしくは買ったコンビニの袋に入れたまま、こっそりとばつが悪そうに飲むという行動をしている人がたくさんいたんですね。

病院の中は暑いし、今から診察を受けるので緊張する、でも飲食は禁止されていて、水を飲める場所は近くにないんです。唯一水が飲める自販機スペースまで行くと自分の番号が呼ばれたらわからなくなるので、みんなそこで隠れながら飲んでいるという行動があったんです」

-すごく想像できるというか、切ないですね。水はいいんじゃないかと思ってしまいますが……。

「基本水なら飲んでもいいという暗黙の了解はあるようなのですが、病院としては「全面禁止」と言わなければならない事情があり、曖昧にしていたんです。

このことから『飲食禁止だが室内温度の高さなどで喉が渇くため、■■しないように■■しなければならない(※詳細はお問合せください)』というジョブが見つかりました。

自販機スペースのみ水を飲んでいいということになっていたんですが、待合室を離れてまで行けないので、例えば、このジョブから『■■をエレベータ付近におくことで、明確な■■をつくる(※)』という提案をしました。

ものすごくシンプルな提案ですが、自販機まで行かなくていいだけでなく、曖昧な飲食のルールに対して、患者さんがここなら大丈夫だと安心して水を飲むことができるのではないかと思います」

-たしかに■■がある場所なら飲んでもいいと自動的に認識できますね。

「ほかにも、この病院は1階にカフェ、食堂、コンビニがあります。カフェと食堂は中で食べることができますが、コンビニにはイートインスペースがないんです。2階の自動販売機のスペースにソファがおいてあり、そこだけ飲食OKだったので、コンビニで買ったものをそこで食べているという方が多くいました。

その中のひとりに話を聞いたところ「食事をするときは静かなところでひとりで過ごしたい」というんです。

カフェや食堂は少しうるさいし、一人だと入りづらい、かといってコンビニでご飯を買っても食べる場所がないのでここにいると。以前通っていた病院には飲食できるテラスなどがあったが、この病院にはないため、このような場所で食べていたそうです」

-病院は本来飲食する場所とは思いませんが、やはり待ち時間が長い、待ち時間を潰す有効な手立てが少ないということもあり、飲食せざるを得ないという気持ちはわかります。何もせず待つというのはとにかくつらいですよね。

「この病院の特徴としてワンストップで1日でたくさんの検査を受けられるというのがメリットなんですが、そのため、患者さんによっては朝8時から14時くらいまで長時間病院にいなければいけないんです。患者にとってはスムーズに色々検査できるという利点がある一方、病院にいる間は書類をたくさん持たなければならず、検査のたびに書類を出して受け取って、また次の場所で書類を出して……と、書類の管理がすごく大変そうに見えました。利用者には高齢の方も多く、必要な書類がなかなか見つけられなかったり、混乱してる方もいたんです」

-病院で渡される書類って本当に多くて、今どれが必要なのかわからず、まごついてしまうことが多いです。

「病院が用意してあるファイルには、初診用と再来院用の2種類があって、それぞれに別々の色がついています。病院で働く人からすると、その患者さんが初診なのか再来院なのかは一目でわかるような工夫はされていたのですが、患者さんの立場に立った時に、複雑な書類の整理という意味では機能しておらず、そこにひとつ改善の機会があるんじゃないかと思いました。

誰もいない受付の机やごみ箱の上で書類を整理する患者さんも何人か見られたので、そこから『■■■な■■■で、■■■■しなければならない(※)』というジョブを見つけました。

これに対して、我々が考えたのは、「院内の患者さんの■■上に■■なスペースを設ける」ことで、より快適に■■が行えるのではないか」という提案です。

-なるほど。こちらも現実的な提案ですね。

「ファイルに関してはもう1点、ジョブを見つけることができました。

患者さんは書類提出の際に、病院側にファイルごと渡さなければなりません。その間手元に残る他の書類の行き場がないのですが、診察を進める過程で更に書類を受け取ったりするので、それを整理するためにいちいちどこかに広げたりする人が多かったんです。

このことから『診察を進める過程で■■があるため、■■ごとに■■しなければならない(※)』というジョブが導きだされました。そして、このジョブから考えられるソリューションとしては、■■となる■■があり、必要な■■だけを■■可能な■■のようなものを作れば、来院患者がスムーズに書類の管理ができるのではないかと思います」

病院は患者中心ではなく、診察の効率化を中心に空間やシステムが作られている

「エスノグラフィーは基本的には、対象者を定めて、その人を観察します。僕の学んだ手法で言えば、対象者の方に対して弟子入りするような態度を持って観察を行うものなのですが、今回はパブリックな病院という場所だったのでやり方が普段とまったく異なりました。

特定の対象者を決めず、僕たちが一定の場所に立ったり、動き回ったりしていました。院内の環境全体を俯瞰したり、特定の場所での利用者の行動を見るという方法です。普段と違うので、最初は少し難しいと感じた点もありましたね。

対象者の方と交流して信頼関係を構築しながら、参与観察を行うというスタイルのエスノグラフィーではなく、調査員という腕章をつけて院内を動き回っていました。病院はガン治療専門ということもあって、現場は多少ピリピリしていました。観察する側として入りづらかったというのはあります。」

-病院で参与観察はできなかったんでしょうか?

「お見舞いの人ならなんとかできたかもしれませんが、病院側から、実際の患者さんをリクルートすることは難しそうということだったので、このような形式での調査になりました。ただ対象者を定めずに行いはしましたが、もちろん気になった行動をとった人には直接会話して、話を聞かせてもらいました。

病院側も大変努力はしていて、問題意識をもって試行錯誤を繰り返しているようでしたが、そもそもの病院全体の設計として、患者さんの体験中心というより、診察の効率化を目標に、院内の空間やシステムが作られているようでした。

患者さんには、1日で一気に複数の検査を受けることができるというメリットがあるのですが、待ち時間がかなり長く辛そうです。病院の待合室ですから、家族と満足に話したり、新聞やスマホを堂々と扱うこともはばかられるような空気感がありましたし、椅子も固いものが多く、どことなく緊張しちゃいます。また、患者さんが診察を受けている間に、それを待っている付添人がくつろぐスペースもなければ、自由に飲食もできず、行く場所もなければやれることも少ないです。こうして、病院の患者さの視点にたつとまだまだ改善の余地があることが見えてきました」

-対象者を決めてエスノグラフィーを行う場合と、今回のように全体を見る場合との違いはどのような点だと思いますか?

「対象者を決めずに行なった今回のエスノグラフィー調査にはメリットもあるかと思います。たとえば、ある職場で働いている人たちが、どういう風にオフィス空間を利用しているかを知りたい場合は、特定の対象者だけを観察するよりも、空間全体を俯瞰することで『このスペースでは、自然と多くの人がこう動いている』、『あの椅子だけほとんど使われていない』などの新たな発見ができる可能性は十分あります。空間の使われ方や、大きな人の流れのフローを掴むなど、特定の対象者だけを観察していたらなかなか分からないことに気づくことができるという利点がありますね。」

-ありがとうございました!

私たちが普段なにげなく利用している病院。今回ジョブとして上がった点は、この病院に限らず多くの病院でみなさんが感じている使いづらさや不満点のように思いました。

エスノグラフィーで来院体験を向上させようという取り組みが広がることで、病院の持つ価値も変わっていくのかもしれません。

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