SEEDATAアナリストの中で22歳という若さながら、学生時代に培ったエスノグラファー的視点で、するどく世の中を観察している宮下さん。
今回は以前SEEDATAの中で行った、訪日外国人のエスノグラフィーから見えてきた、東京の移動体験を向上させるためのヒントについてお伺いしました。
ジョブ発見アブローチだからこそ見えること
宮下(以下:宮)「SEEDATAのジョブ理論に基づいて、公共交通機関の移動体験を調べようということになりました。ちょうどSEEDATAのエスノグラフィを旗揚げしようというときに、本当にジョブが見つけられるかどうか、メンバーの実力をはかろうという意味もあったんです。
実際に何をしたかというと、年々インバウンド需要(海外からの訪日旅行)が増えていて、東京オリンピックのある2020年までは、増え続けると言われていますよね。英語の看板とかも増えてきているけれど、それでも迷う外国人はたくさんいるだろうとなんとなく思っていたのと、フィールドとして入りやすいのは街の中だよねということで、訪日外国人の人調査をしようということになりました。
東京の移動体験をいかに向上させるかという案件があったと仮定して、僕らならどう調査設計するかを自前でプランニングしたんですね」
一東京の移動って、日本語が読める人にとっても初めは分かりにくいですよね、
宮「実際に日本に訪れる方って日本語がわかる方ばかりじゃないので、さらに移動に障害が多そうな、日本語が読めない外国人留学生の観察を行いました。
方法としては実際に、渋谷から指定した赤坂のアークヒルズまで行ってもらうのですが、事前に「バスだとすぐ行けるよ」とだけ情報を教えました。バスを選んだ理由は簡単で、日本人でも慣れていないと東京のバスって難しいですよね、だからあえて条件をバスに指定したんです」
一私も東京に長年住んでいますが、渋谷からバスに乗ったら全然違う場所に行ってしまったことがあります……。知らないバスはいまだに苦手ですね。
宮「本当にわかりづらいですよね(笑)。ということでちょっと意地悪チックに、バスを指定して、留学生の方は渋谷のハチ公前からスタートしたんですが、最初は駅前の周辺地図を見ていました。これは自分の現在地を確認するためですね。その後はスマホを見ながら歩いて、そこは日本人とそんなに変わらないですね。
バスのロータリーに到着し、目の前に目的地に向かうバス停があるのに、日本語ではわからないから、ロータリーの真ん中に置いてある英語表記の看板を読んでいました。日本人なら目の前の停留所に「六本木方面」と書いてあればハブとなってる看板を見なくても列に並べますが、彼は不安になって英語で書かれた看板を見に行ったんです」
一それは海外の人とにとってはすごく不親切ですね。
宮「でもこれは、そこに英語がないなら追加すればいいというニーズの話です。彼はそれでバスを目の前で逃してしまい、呆然と立ち尽くすのも疲れて座り、次のバスを先頭で待っていたんです。
そこで次のバスが来て乗るわけですが、お金の払い方がわからず、運転手に止められてしまうんです。結果、後ろに人が並んでいたプレッシャーから、持っていた小銭を全部入れてしまうという」
一私も上京して始めてバスに乗ったとき、お金を先に払うのがわからず止められたので気持ちがわかり過ぎてつらいです……。
宮「ただ、これもバスに乗る際にお金を先に支払うという情報が事前になかったというだけなので、ニーズ発見のアプローチでも見られることだと思ってます。
ジョブ発見のアプローチで非常におもしろいのはここからなんですよね。彼は一番先頭で前から乗ります。始発駅なので席はどこでも空いているんですが、どこに座ったと思いますか?」
一席が広いからいちばん後ろでしょうか?
宮「彼が乗ったのは、進行方向左側、後ろから3番目の席でした。どこでも席を選べる中で、なぜその席を雇用(ハイア)したのかが重要なポイントです。
そもそもニーズ発見型アプローチの思考の中では、どこにでも座れる状況って「不足してない」状態なんです。もし、席がいっぱい埋まっていれば、「立っていなければいけなかったと」記述できるかもしれませんが、逆にどこにでも座れるからこそ、何故そこに座ったのかという発見があったんです」(続)