前回はSEEDATAアナリストで、大学時代エスノグラフィーを専攻していた宮下さんに、学生時代に行った「一人暮らしの食卓」のエスノグラフィー調査の内容と、カット野菜にそのまま箸を突っ込んで食べる男子大学生の食事風景から、「自宅の中に嫌な匂いがこもるのが嫌で、それを事前にふせがなければならない」というジョブを発見したというお話を伺いました。
今回はそのジョブから導き出された「ノンディッシャー」という新たなトライブと、そこから得られたヒントについてのお話です。
エスノグラフィー的視点を持てたからこそ、本当のジョブを導きだせた
-前回のお話から、通常は出てしまった匂いに対して対策をするけれど、そもそも生ごみを捨てることで自宅の中に匂いを発生させたくないというジョブがあると。
宮下(以下:宮)「そうです、匂いを出さない工夫のひとつとして、排水溝とか匂いがこもってしまう場所にはそもそも生ものを流さないというのは、かなりおもしろい気付きかなと思いました」
-私も料理することは苦ではないんですが、作ったあとに生ごみが残るのは嫌だなと思ってしまいます。とくに魚などをさばきたくないのは、さばく作業そのものより、あとに残ったゴミの処理に悩むからだったりしますね。
宮「大学生が主婦の方などと違う点は、そもそも起きる時間が遅くて週に2回のゴミ出しができないんです。結果ゴミを自宅に溜めがちになり、生ごみの匂いがどんどんたまっていってしまうという別の問題もありますね」
-ところで、そもそも成果が得られなかった学生時代のエスノグラフィーを、何故今になって再度分析してみようと思ったのでしょうか?
宮「ある時、『一人暮らしの大学生ってこういうことやりがち』っていうなにげない会話の中で、例えば『大学生はマメに自炊する人でも大皿に盛りつける』とか、『極端な人だとカット野菜にそのまま箸をつっこむよね』っていう話になったんです。
SEEDATAに入って僕がエスノグラフィー的視点を手に入れて気がついたのは、今って核家族や単身世帯が増えているし、今後も中食は増えるといわれている中で、そもそもこういう人たちの生活にアプローチするのが難しいということ。それで、彼らを「ノンディッシャー」というトライブ(皿を使わない人々)にして、分析してみたんです」
-SEEDATAに入った今だからこそ分かることがあったわけですね。
宮「何故食器を使わないのかという疑問を、単純な「時短」という話で済ませる人が多いけど、僕はすごく観察をしていたから「皿を洗うことで自分の住空間をマイナスに導くこともある」という発見がありました。
SEEDATAエスノグラフィって、行動観察をしたあとに必ずインタビューをするんです、がその意味ではトライブリサーチでありながら、もともと僕が観察していたという事実があるので、だからこそ分析的視点をもって気が付くことができたし、僕はすごい示唆を得ていますね」
-ノンディッシャーな人って意外と多そうですよね。
宮「いっぱいいますよ、大学の後輩とかに聞いて探したらすぐにたくさん見つかりました(笑)。
彼らはほとんど家で食事をしないからこそ、自宅の住み心地に気を遣っているんです。匂いによって住環境が汚されるということが起きるので、そうやって匂い対策をしているんですね。匂い消しグッズを買ったりはしてないけど、そもそも匂いが出ない工夫をしているんです。
これってすごい商品開発にいかせる示唆だと思うんです。匂いをどうやって封じ込めるかというところに、そもそも製造したものから発生した匂いを、事前に防いでくれるっていう仕組み自体が今現在はないわけで、そういう素材の開発かもしれないし、色んなヒントになりそうだなと思っています」
「お皿を使わない」という行動は、一見、「雑」であったり「変わっている」だけで片付けられてしまいがちです。エスノグラフィー的な視点を持てた今だからこそ、「匂いを発生させたくない」というジョブを導き出すことができたというお話からも分かるように、同じものごとを観察していても、エスノグラフィー的な視点を持てるかどうかで見えてくる世界がまったく違うということがよくわかりました。(了)