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SEEDATA
公開日:2018.06.11/ 更新日:2022.11.07

流通(retail)

流通企業向けエスノグラフィー②主婦にとっての店舗を回るという行動の持つ価値

昨今の流通企業を取り巻く市場の大きな変化に対し、それに対応した顧客理解やユーザー視点の施策については、いまだ明確な答えが見つかっていないという企業が多いのではないでしょうか。

当連載では、SEEDATAエスノグラファーの宮下氏が、実際に店舗での消費者の購入体験や、商品購入後の消費者にエスノグラフィー(行動観察)とインタビューを行い、流通や小売りに今後より求められるであろうユーザー視点に立った顧客理解の方法について事例を交えながらご紹介していきます。

第二回の今回は、共働きの主婦のある日の消費行動から見えてきた、実店舗での買い物の価値について分析します。

主婦の消費行動から見えてきた実店舗での買い物の価値とは?

今回は都内に住む共働きの主婦の観察をもとに、そこから見えてきた実店舗での買い物に求められる価値についてご紹介します。

 対象者は38歳女性、杉並区在住、夫と二人暮らし。夫は飲食店で板前として働いていて、対象者は元々服飾デザイナーで、現在は税理士事務所のサポート業をしています。平日は17時には仕事が終わり、夜は自由になる時間が多いという生活スタイルを送っています。

今回は金曜の仕事が終わる17時から観察をスタートし、就業後、駅近くのスーパーで食材を買う様子と、その後家に食材を置き、職場の税理士の先生と外食をするところに同行させていただきました。

まず分かったのは、彼女の普段の生活の中での買い物の範囲が非常に広いということ。

食材の買い出しにスーパーに同行した際は、スプラウト、キノコくらいしか生鮮食品を購入せず、「普段野菜はあまり買わないのですか?」と質問したところ、「生鮮は職場近くの八百屋で旬のものを大量に安く売っているので、そこで購入している」と言うんです。八百屋は17時には閉まってしまうので、お昼休みに八百屋で購入して、足りないものをスーパーで補うというスタイルが定着しているとのことでした。

また、興味深かったのは、店舗の選択という点において、彼女はドラッグストアにはあまり行かないという点。彼女の住まいは駅までの間に2、3軒ドラッグストアがあるのですが、シャンプーやリンスなどを購入するときは、10分ほど自転車に乗ってディスカウントストアに行くそうです。理由を尋ねると「ドラッグストアは棚が異常に早く変わってしまうのがネック」ということでした。

たしかに、すごく欲しいものがあって目的地に行くのに、棚が変わって欲しいものがないかもしれない、すぐに見つけられないかもしれないと思うと、優先度は低くなってしまうでしょう。

しかし、独身男性の私の感覚からは自転車で10分もかけてディスカウントストアに行くというのはあり得ないのですが、「何故わざわざ遠くまで行くのか」を聞いたところ、金銭的な問題や、いかに安いもの探すかということではなく、主婦(彼女)にとって日常生活の買い物は、業務的に家事をこなすという以上の価値を持っているのだということが分かってきました。

実際に買い物後に税理士事務所の先生と食事をしている際は、買い物時に見つけたおもしろい店の話や、こんな新商品があったという話が会話のネタになっていました。近所付き合いのある主婦同士の間では、日常的に「この課題を解決するためにはこういう商品がいいよ」という商品情報の交換がされていて、交換できるネタを見つけるという意味でも、店舗をまわるという行動に価値があることがわかったのです。

具体例として、最近販売されている圧縮されたトイレットペーパーやキッチンペーパーについて彼女が税理士の先生に勧める場面がありました。その商品の価値は何かというところを深堀りしてみると、パッケージされている個数だけで見ると金額は普通のトイレットペーパーの倍になりますが、使える期間は普通のペーパーと同じです。

メリットとしては、

・一回当たりの買い物で持ち帰る荷物の大きさが減る

・その分ほかのモノを購入できる

・今までどおりトイレットペーパーを買うのと比べて買い物の頻度が減らせる

などがあげられます。

また、「今までどおりの同じタイミングで購入すると、家の中に半分の面積で置いておくことができるため、家の中が整理されていて気持ちいい」という意見もありました。トイレットペーパーなどの生活感があるものを他人に見られたくない、生活感のあるモノが目に入らないと家の中が整頓された気がすると考える人にとってはそこが価値になるのです。実際に70代の税理士の先生も「それはすごくいい」と盛り上がっていました。

また、主婦の方の会話の中からわかった「トイレットペーパーのような生活感のあるものを購入して持ち歩きたくない」という問題も興味深い点でした。

主婦の方たちは、目的のものの購入が終わるとそこで買い物が終わりではなく、その近くで最近できたお店に行きたかったり、別のものを買いたかったり、比較的アクティブに店舗を行き来したいと思っています。

実際に対象者からも「店舗をまたぐのは苦ではない」という話があり、根底には、前述した主婦同士の「こういうお店ができていた」「こんな商品があった」という情報共有のために情報収集したいという気持ちもあるのではないかと分析しました。

しかし、そのときに問題となるのが、生活感あふれる所品を持っているのを他の人に見られたくないという点です。

たとえばトイレットペーパーをもっていると外食はしずらいから、一回自宅におかなければいけないというタスクが発生してしまいす。その意味ではトイレットペーパーをそもそも中身が隠せるような包装にするというのも、彼女たちの心を掴み、サービス向上につながるヒントなのではないでしょうか。

実際対象者からは「最近できたパン屋さんに寄ってみたい、買い物ついでにお出かけを楽しみたいという時にこれらのものを持っていることで阻害されている」という発言がありました。

ここまでの話から、主婦の方にとってアクティブにいろんな店舗をまわることは、主婦同士の話題のネタを探すという意味と、買い物が終わったあとのお出かけを楽しむという価値を持っているといえるのではないでょうか。

ECで購入したいのは生活感のある物や重たい物

最近ではECが発達し、小売各社も自社ECを開発、アプリの提供を行うことで、オンライン上の購買行動が増加しています。また、宅配ボックスつきの集合住宅も増加しています。

宅配ボックスはまだ一般的ではないかもしれませんが、導入が早かったTOBの領域で接点をもっている人は非常に増えていると感じました。今回の対象者も、職場には宅配ボックスが導入されており、事務用品購入するときはすべてネット通販で購入し、どのタイミングでも宅配ボックスで受け取ることができるという体験を既にしています。対象者の自宅は賃貸なので宅配ボックスはありませんが、もしあるとしたら、備え付けられているボックスのサイズにもよりますが、「生活感あふれるものや重たいものは確実にオンラインで購入したい」と発言していました。

重いものや大きなものを持っていると、買い物を一度で済ませられなかったり、そこから別の場所に行きずらくなるという点をECは解決してくれるでしょう。

一方、女性にとっては、買い物に出かけて新しい商品やお店の情報を知ること自体が実店舗に行く価値になっているのに、ネットスーパーのようなサービス増えて活用者が増えると、買い物自体の楽しさは減っていくのではないかと感じました。

ネットスーパーは頻繁に購入しているものをレコメンドしていて、多く買っているものにカスタマイズされていくのですが、毎回購入するものが固定化すると捉えることもできます。フィルターバブルとも言われていますが、自分が知っている情報だけをとるようにどんどんアルゴリズムが最適化されていくと、そもそも買い物に行く価値としてあった主婦同士の会話や、新しい情報を取り入れるということは難しくなっていくでしょう。

一度購入したものをレコメンドしていくことも重要ですが、ECは主婦間の会話のネタや、出かけて新しいお店や商品を知りたいという消費者の欲求に応えられるサービスにはまだなれていない気がしています。

実店舗との住み分けとして、ECではある程度固定化されたモノを購入するというユーザービリティはあっていいのですが、ECで頻繁に固定的にモノを購入するようになるほどに、実店舗では、よく来る顧客に向けて最適化した陳列することはあまり意味がなくなっていくのではないでしょうか。ECで見られるモノと、実店舗で見られるモノが変わらなければ、足を運ぶ必要はありません。

これからの実店舗に求められるものは、ECで固定的に購入されていないモノの情報をいかに提示して、ネットスーパーでまた新しいものを購入するきっかけを作るかという情報集約の場所であったり、自分がネットの力によって知らず知らずのうちに狭まった視点を改めて広げてくれるような生活提案の場になっていくのではないでしょうか。

つまり、重いものを持ちたくない、雨の日に出かけたくない、生活感のある商品を人の目に触れる状態で買い物したくないという人にとってはネットスーパーは非常に便利でどんどん活用が進む一方で、実店舗に行って取得したい目新しい情報というものがまだあるはずなのです。

とくにアプリの利用で購入物が固定されればされるほど、これまでいろんな店舗を回って新しい商品を目にして、どんな風に生活が豊かになるかを自分で考えていた楽しさが、どんどん失われていくわけです。

消費者にとって、目新しい商品やサービスを提案してくれるショールームのような体験をいかに高めていくかが、今後の実店舗には求められていくはずです。

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