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SEEDATA
公開日:2021.02.08/ 更新日:2021.06.10

トライブ(tribe)

【トライブレポート紹介68】新しい移動体験のヒント ツーマイルライダー

SEEDATAは今後増えていくであろう考え方や行動を示している先進的な消費者グループ=「トライブ」を独自のリサーチによって発見、定義し、調査した結果をレポートにまとめています。トライブ・リサーチから得られた知見を通じて、推進される企業のイノベーション活動を「トライブ・ドリブン・イノベーション」または「トライブ・マーケティング」と総称し、コンサルティング支援を行っています。
トライブレポートの詳細と読み方については、こちらの記事をご一読いただければ幸いです。

トライブレポートの読み方

2020年、コロナウイルス感染症の世界的な流行を受け、密集、密接、密閉の三密を避けるよう厚生労働省が提唱し、私たちの生活は激変しました。
マスク着用という新たな生活様式、ステイホーム、緊急避難宣言、リモートワーク、飲食店での会食制限、巣ごもり消費、GOTOトラベル…など、コロナウイルスに関するトピックを上げだせばきりがないが、これまでとはまったく異なる一年だったことは間違いありません。

とくに都市部に暮らす人びとにとって大きな懸念事項となったのが、通勤の際の公共交通機関の利用でした。
緊急事態宣言解除後も国はリモートワークを推奨していますが、都心へ向かう朝の電車は再び空席がないほどの乗車率に戻っています。
国の発表でこれまで「通勤電車でのクラスターは発生していない」とされていますが、見知らぬ多くの人と肩を寄せ合い、まさに密集、密接、密閉の三密空間である電車は、いつ感染してもおかしくない、と不安を感じる人もいるでしょう。

実際に、このような状態での密な通勤に危機感を持ち、交通手段を電車やバスなどから、電動自転車やバイクに変える生活者が増加していることにSEEDATAは着目しました。
「ツーマイルライダー」のトライブレポートでは、彼らの行動とインタビューから、生活者のインサイトと新たな移動体験のヒントを明らかにしていきます。

新たな移動手段をとる人が増えた2つの社会的背景

そもそも、これまで鉄道網が発達している都市部では、自動車をはじめとするパーソナルモビリティを所有することは無駄と考えられていました。
しかし、以下のような社会背景の変化から、人びとは新たな交通手段を模索し始めたのです。

①コロナウイルス感染症の世界的流行

前述したとおり、コロナウイルス感染症世界的流行があげられます。

②原付二種の広がり

原付(原動機付自転車)とは、日本の車両区分のひとつであり、原動機を備えた小型の二輪車を意味します。
一種よりも機動力が上がり、移動距離をさらに広げられる原付二種を取得する人びとが増加していることには以下の要因があげられます。

道路交通法の改正による原付二種の取得ハードル低下

これまで、普通免許で取得することができたのは原付一種のみでしたが、2018年の道路交通法の改正により、普通免許を持っていれば原付二種を最短2日で取得することができるようになりました。

多種多様なバイクの登場

技術の発展によるさまざまなバイクの登場は、これまで駐車スペースや重さの問題などで諦めていた人々にとっても福音といえるでしょう。
最近では自転車より収納しやすいコンパクトな折り畳みバイクなども登場し、馬力もあり、しかも(自転車と比べて)疲れないというメリットもあります。

バイクだけでなく、坂道や重たい荷物を詰んでも疲れにくい電動自転車や、電動自転車の推進力を更に強化し、100キロ以上走ることが可能なイーバイク、ペダル付き電動バイクなどの二輪が登場し、移動手段として購入する人びとが増加しています。
参照:

これらの事実から、SEEDATAはコロナウイルス感染症の流行が引き金となり、都市交通の在り方が変化してきているのではないかという仮説を持ちました。
新たにバイクや自転車を購入した人びとの利用実態から、移動体験の変化と、さらには通勤以外にも購買エリアの変化、余暇の過ごし方の変化をまとめましたのが本レポートです。

徒歩で行ける距離をワンマイル(=1.6キロ)と捉え、ワンマイルよりさらに遠くに行けることで、これまで足を伸ばさなかったツーマイルを行き来する人びとという意味をこめ、「ツーマイルライダー」と命名しました。

ツーマイルライダーのセグメント

今回は以下のセグメントで調査をおこないました。

ハイブリッドライダー

性別年代問わず、原付ではなくイーバイクなどに乗り、どちらかというと都市内部を移動する人

通勤グライダー

これまで電車通勤をおこなっていたが、コロナを機に自転車やバイク通勤に変えた人

スローライダー

移動時間は早ければ早いほど良いという考え方ではなく、あえてゆっくり移動して空気

や景色を楽しむ人

トライブプロファイル

ここでは調査から分かったトライブの特徴と、そこから見えてきたインサイトの分析結果の一部をご紹介します。

①効率的な移動に対する捉え方の変化

ツーマイルライダーは単に楽をするためではなく、移動の時間効率と機能性の良さを総合的に判断して移動手段を選択していることが分かりました。
彼らは、これまで車や電車が抱えていた渋滞、遅延といった効率の悪さを課題として捉え、これらを小回りが効く電動自転車という手段を用いて解決してます。

現状の電動自転車は、子どもの送迎用カゴが予め取り付けられているものなどデザインや形に限りがあり、また、ハイブリッドな乗り物も増えてはいるものの、その存在はまだ広く知れ渡っているとはいえません。
今後は今以上に様々なシーンや用途に合わせた電動自転車の展開が求められていくのではないでしょうか。

②通勤時間の捉え方の変化

ツーマイルライダーは、通勤時間が唯一日常空間から乖離された自分だけの空間であると捉えていました。
電車やバスなどの公共交通機関での移動はプライベートと仕事をつなげる時間でしたが、移動手段をバイクや電動自転車に変えることで、同乗者がいないため、移動時間を「自分のパーソナルな時間と空間」と捉えています。
雑音のない世界で好きな音楽を聞くことなどで、自分ひとりの世界に没入することができるといいます。

➂運動への捉え方の変化

ツーマイルライダーは、モードを使い分けることで負荷をコントロールしたいと考えています。
SEEDATAが以前調査したトライブ・おてんばマダムの中でも「あえて身体に適度な負荷をかけたい」というインサイトがありました。
電動自転車を使うあるトライブは、坂道で子どもを乗せてこぐ際はアシストモードにするが、通常の平坦な道の場合はアシストモードを切って運動手段にしているといいます。

④加齢との向き合い方の変化

ツーマイルライダーは、歳をとっても電動アシストを使うことで無理なく自分の若さを取り戻そうとしていると考えられます。
どれだけ身体を鍛えていても加齢による体力の低下は止めることはできませんが、アシスト機能により若い頃と同じようなスピードで、長距離を移動することが可能です。アシスト機能があれば、一時的に若さ取り戻すことができるといえるでしょう。

⑤寄り道の捉え方の変化

ツーマイルライダーは、自由度の高いパーソナルモビリティによって、あえて寄り道の時間を楽しんでいます。
これまで徒歩では行くことができず、かといって電車やバスでは下車することがなく、通り過ぎてしまっていた中距離は、なかなか行く機会のない場所でした。
しかし、小回りの効くバイクや電動自転車を手に入れることで、お店や公園など、新たな発見をすることが大きなモチベーションとなっているのです。

生活者変化行動仮説

ここでは、トライブプロファイルから考えられる、3~5年後の未来の生活者変化行動仮説と、それをヒントとしたビジネスチャンスをご紹介します。

①通勤でストレスを溜めるのではなくストレスを解消するために通勤を利用する

これまでは通勤こそがストレスのもとという考えが一般的でしたが、スローライダーのように寄り道をしたり逆に通勤を楽しむという人びとの登場から、たとえば、通勤を軸に、健康寄与に向けてウォーキングや寄り道などを楽しむ、運動促進系の福利厚生サービスのアイデアが考えられます。
バイク通勤を許可したり、歩くことを促進するためにスタンプラリーサービスなどを取り入れることは、健康経営のサポートに寄与してくれることでしょう。

②「〇〇×運動」で、負担感の少ない運動体験を求める

今回の調査から、ツーマイルライダーは、原付などのパーソナルモビリティを走行した後に、まるで運動をしたかのような心地よい疲労感を感じることで充足感を得ていることが分かりました。


これまで運動とは、純粋に運動自体に集中して取り組むことを指していたのに対して、運転という行動に取り組む中で、運動しているときと同じように神経や筋肉を使っています。
このことから、運動自体に集中し、体に負荷をかけることを本当の目的とするのではな
く、メインとなる他の行動に没頭しながら運動もできる「〇〇×運動」という新しい可能性が考えられます。
無理やり取り組むのではなく、ほぼ無意識に近い形で体が疲労感を感じることができるため、心身の負担が軽減され、より取り組みやすい運動体験が実現できます。

ポケモンGOやリングフィットアドベンチャーなどの大ヒットからも分かるように、これからの時代は運動自体が目的ではなく、気が付けば運動になっていたというような、サービス設計が求められていくでしょう。
単一手段単一目的ではなく、複数手段複数目的が一気に実現できるようなサービスデザインは、運動に限らず広く受け入れられていくと考えられます。

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