SEEDATAは今後増えていくであろう考え方や行動を示している先進的な消費者グループ=「トライブ」を独自のリサーチによって発見、定義し、調査した結果をレポートにまとめています。トライブ・リサーチから得られた知見を通じて、推進される企業のイノベーション活動を「トライブ・ドリブン・イノベーション」または「トライブ・マーケティング」と総称し、コンサルティング、支援を行っています。トライブレポートの詳細と読み方については、こちらの記事をご一読いただければ幸いです。
「モバイルレジデンツ」は、居住空間の今後の所有の仕方や、人びとが今後どのような暮らしを求めるかといった「住まいの未来」を知るために調べたトライブです。
まず、彼ら、彼女らに注目した背景として、2つの大きな社会変化を抑えておく必要があります。
ひとつめは「持たない暮らし」が増えてきたということです。これまでSEEDATAでは「モノの所有の未来」を見るために、「シャリオ」「オンラインフリマ」「エニカ」などを調べてきましたが、サブスクリプションサービスやシェアリングエコノミーが広がっていくと、人はどんどんモノを所有しないで暮らせるようになってきています。この流れの中で「家を持たない」という選択をする人も現れ始めています。
ここでいう「家を所有しない」というのは「戸建てを購入しない」「マンション、アパートなどの賃貸物件を借りて暮らすことをしない」という意味です。
最近いちばんポピュラーな形で現れてきているのが、個室はあるが台所やお風呂、トイレなどの水まわりは全員でシェアして使うシェアハウスやソーシャルアパートメントです。
これまで当たり前のように、生活空間として誰もが家を所有していましたが、所有しないという選択ができるようになった一例といえるでしょう。
シェアハウスを活用しているのはミレニアル世代が中心ですが、この世代の中には「人とモノをシェアすることで、広々としたリビング、アイランドキッチン、シアタールーム、ジャグジーなど、自分では買うことができない豪華なものを使用できるメリットがある」という価値観がありました。
ふたつめの大きな変化が「旅をするように暮らす」という価値観の登場です。
この背景にはフリーランスが増え、デザイナー、エンジニア、ユーチューバーなど、パソコンがあればどこでも仕事をすることができる職種が増え、リモートワークが可能になり、場所を固定せず人が働けるようになってきたという要因があげられます。
必ずしもひとつの場所に家や拠点を決めて住む必要がなくなり、実際にリュックサックやスーツケースひとつでAirbnbなどを利用して海外を移動しながら生活している人も存在します。
このように、モバイルレジデンツたちは「家という箱の中に必ずしも生活に必要な機能を備えている必要はない」「必ずしも同じ場所に帰る必要はない」という価値観を持つ人たちです。
実際調べたのは、ホテルやゲスハウスを毎日点々としながら暮らす人や住機能を持たない空間(バン、タイニーハウスなど)で暮らす人たちです。彼らは生活に必要な機能を自分で持たず他人とシェアしたり、掃除や洗濯などはアウトソースするなどしています。
そもそも、何故彼らが「家を持たない暮らし」を選択をしているのかを理解するうえで、彼らの根本にある大きな価値観を知る必要があります。
モバイルレジデンツは30代前半のミレニアル世代が多く、このような行動がひとつの世代に集中していることには原因があり、1992年のバブル崩壊に始まり、その後の阪神大震災、米同時多発テロ、リーマンショック、東日本大震災、大企業の倒産・リストラといった、経済成長の崩壊や安全神話の崩壊、終身雇用の崩壊という出来事を立て続けに体験しています。
「家は一度買ったら一生暮らすことができる安心安全な絶対的なもの」と思われていたものが、津波で一瞬で流れるシーンを目の当たりにしたり、大企業の一斉リストラで職を失うなど、「当たり前のもの」が一瞬で壊れることを痛感しているのです。これらの経験から、彼らは終身雇用で働くことや、家を買うことなどこれまでの「当たり前」に疑念を持って生きています。
また、データからも分かるように実際持ち家を購入する人は年々減少傾向にあり、逆にシェアハウスに住む人は増加傾向にあります(データ参照)。民泊やAirbnbも増え、家がなくても泊まる場所がないという状態はなくなってきているといえるでしょう。
今回調査したのは以下の3セグメントになります。
アドレスホッパー
住まいを所有しない生活者。完全に居住空間を持たず、ホテル、ゲストハウスなどシェアリングスペース、Airbnbを毎日点々としている。
「アドレスホッパー」という名は自身もアドレスホッパーである市橋さんが命名し、広がってたもの。
ダウンスケーラー
お風呂など住まいの機能を外部化する生活者。
家は持っているがコンテナのようなそぎ落とされたスマートな家やタイニーハウスで生活する。タイニーハウスは車輪がついている移動可能な家。
バンライフ
バンやトラックの上に家を設置したモバイルハウスで暮らす生活者。
駐車場で寝泊まりしたり、コワーキングスペースの駐車場に止めて住んでいる人もいる。
アドレスホッパーのIさん(上で市橋さんと出しているのでどちらかに統一)は日本で初めてのこの暮らしを始めた第一人者であり、リュックひとつで生活していて、その日行きたい都合のよい場所を選んで点々としています。
彼からは「Googleでホテルと調べれば絶対出てくるから、帰る場所がないなんてありえない」という象徴的な発言がありました。たとえば、飲み会が渋谷であった場合、「家が遠いから行くのやめよう」など、場所に縛られて何かができないことが嫌で、自分の直感や感性にしたがって生きていたいという考えを持っています。
居住地が固定されていることは「フレキシブルになれないリスク」と考え、そのような言い訳をしないためにも家を持たないといいます。
また、「家はただの箱でそこにコミュニティはないため、ただの箱にお金を払うモチベーションはない」ともいいます。シェアハウスはそこにコミュニティがあって人がいるので、どうせお金を払うならコミュニティのある空間を選びたいと考えていました。
移動生活のため、荷物はほとんどありませんが、段ボールに荷物を入れて送ると写真で一覧にして見ることができる「サマリーポケット」を使用しているため不便はないといいます。
自分でモノを持ち歩かなくても好きなときに取り出すことが可能なため、Iさんはそれを「四次元ポケットのような感覚」で使用しているといいます。
ダウンスケーラーひとりは自分でタイニーハウスを作っている女性です。
彼女たちは「自分の所有物をそぎ落とす作業で、何が自分に本当に必要なのか考える」作業をして、自分の人生をクリアにしていくことを目指しています。
持ち物だけではなく、自分が本当にお金をかけたいものは何なのか、自分の本当に大切にしたいものは何なのかを考えるすべのひとつとして家を小さくしているのです。
このセグメント共通の特徴は「働いて家賃を払い続けることに疑問を持っている」という点です。たとえば賃貸であれば敷金礼金と家賃、更新費などがかかり、それを一生継続しなければいけません。
一方、タイニーハウスであれば数十万から数百万で作ることが可能です。対象者は400万かけてタイニーハウスを作成中ですが、普通の社会人であれば数年で払う見通しが立つ金額といえるでしょう。
ダウンスケーラーたちは「数年以上先のことや見通しの立たない未来のことは絶対決めたくないし、そこに自分の負担をかけることはしない」という信念をもっています。
タイニーハウスは車輪がついているため、場所にも固定されることはありません。これまで家を買ったらその場所に一生住まなくてはいけませんでしたが、いざとなったら他県に移動が可能なため、「未来が縛られないですむ」という共通の価値観があります。
賃貸の場合も毎月支払いが発生するため、購入して永久に払い続けるストレスから解放されたいと考えています。
また、ダウンスケーラーに共通の価値観として「必要最低限の収入を得られればいい、家に住むために仕事がやめられないという状況を作りたくはない」という考え方がありました。
ダウンスケーラーのひとりである〇さんは、現在、タイニーハウスビレッジを作ろうと考えています。タイニーハウスビレッジとは、中心にリビングやお風呂、トイレなどがある母屋があり、その周りに各々のタイニーハウスを置くというシェアハウスのタイニーハウス版です。
さらに、ダウンスケーラーたちは、リビングなどに公共性を求めている人が多いという特徴があり、プライベート空間でもなく、まったくのパブリックでもない中間のような空間に居心地の良さを感じるといいます。
バンライフは生活圏内が日本全国と広く、タイニーハウスと価値観は似ていますが、とくに異なるおもしろい点は、彼らには知り合いの家や知り合いの運営するホテルやゲストハウスという「拠点」が存在することです。彼らはバンで生活しているため、お風呂などは銭湯などを利用する日もあれば、その拠点を転々として使用しています。
インタビューの中で「自分たちはいろんなコミュニティをつなぐ蜂のような役割」という発言がありました。拠点に行ってコミュニティを作り盛り上げていく人もあれば、人をつないだり、情報を受け渡したりしていて、それらの行動がネットワーク的な役割になっているとも考えています。
また、「今日はここに行きたいという気持ちに正直でいたい」という点はアドレスホッパーと、生活に必要な設備をあえて所有しないことで、他人との繋がりを得ているという点はダウンスケーラーと共通しているといえるでしょう。
彼らモバイルレジデンツというトライブの分析から得られたプロファイルのひとつをご紹介すると、一般的な生活者は家などの固定資産を手に入れたり定職につくことで、「変わらない安定を手にいれる」と考えていますが、彼らは大きなものを買ってしまうことにリスクを感じるという、安定の捉え方の違いがありました。
彼らはあとになって変更にできなかったり、決められた未来に対してリスクを感じているため、たとえば今後の家の在り方として、収入や家族のライフステージに合わせて段階を経て大きくしていくというような設計が求められると考えられます。
アドレスホッパーのYさんからは「家はまずミニマムサイズでスタートで初めて、ライフステージごとに大きくしていきたい」という発言がありました。自分の収入状況に合わせて大きくするなど、リスクヘッジしながら身の丈にあった所有をしていきたいと考えています。
さらに、家を固定することのリスクとして、天災や離婚、近隣トラブルなどという大きな話から、将来的に自由に移動できないこと自体をストレスと捉えている特徴があげられます。
このプロファイルから導きだされた5年後の生活者行動変化仮説は「未来のことを決定して備えることで安心するのではなく、将来を変更可能にすることで安心を得る」というものです。
アーリーウォーニングサインとしてすでに登場しているサービスが、残車両本体価格の一部をあらかじめ残価(=3年後や5年後の予想下取り価格)として据え置き、残りの金額を分割で支払いするトヨタのプランです。3年後、5年後のプランの終了時には、「同じ販売店で新し いクルマに乗り換える」か「クルマをご却」すれば、そのクルマの支払はそれ以上は発生しません。
このように、今後は大きな買い物をする際、最初に全額支払ったり、ローンを組んだりするのではなく、サブスクリプションサービスや返却したいときに返却できるというようにモノの購入の仕方は変化していくと予想されます。
また、もうひとつの大きなプロファイルは「プライベート空間やもともと住まいに求めていたものをパブリックな場所に求めるようになる」というものです。
たとえば、家の中に勉強する空間が欲しければこれまでは家の中に書斎を作っていましたが、今後は家の近所に居心地のいいカフェがあればそこが自分の書斎になりうるため、わざわざ自分の家の中に作る必要はありません。
トライブからは「自分の家に冷蔵庫がなくても「コンビニが自分の冷蔵庫だと思えばいい」という極端な発言がありましたが、世の中のあらゆるものがそのようになっていくことで、
家の機能はどんどん外に拡張されていき、プライベート空間も拡張されていくという風に考え方が変化していく可能性があります。
ただし、トライブたちは家の機能を拡張すると同時に、「ひとりきりになれるプライベート空間や個室にいつでもアクセスしたい」と考えているため、ホテルにそれを求めたり、バンという個室を持ち歩いているのです。
アーリーウォーニングサインとしては、タイムズなどのレンタカーを移動のためではなく、昼寝や授乳のための個室として利用しているという例などがあげられます。
このようにプライベート空間とパブリック空間の境界が曖昧になり、外の空間に生活の場が広がって混じっていくと同時に、ひとりになれたり落ち着く空間に即時アクセスできるようにすることもますます求められていくでしょう。
モバイルレジデンツの「持つことには価値はなく使うことに価値がある」という価値観が、今後一般生活者にも広がっていったとき、自分で何かを所有せず体験を手に入るため、公共空間やシェアリングサービスはさらに活用されるようになっていきます。
一方で、家の機能が外に拡張されていくと、これまでのように所有空間だけを見て住まいを決めることはできません。たとえば近所にコミュニティがあり、リビングの代わりになるかどうか。家の代替になるものが周囲にあるかどうかが、住まいを決める際の重要なポイントになっていくでしょう。
こうなってくると、家というモノとしての空間だけではなく、周辺の環境全体との繋がりをどのように作っていくのかが、今後の住宅メーカーやIT産業に求められることでありビジネスチャンスともいえます。
また、これら現象を加速させる要因の一つが「キャッシュレス化」です。コンビニの冷蔵庫から飲み物を取り出しても、自動決済されれば、消費者にとってもはやそれは自分の家の冷蔵庫から取り出すこととなんら変わりません。このように街の中全体が家のようになっていく未来がやってくるでしょう。
記事ではこれ以上はご紹介できませんが、ほかにもトライブレポートにはおもしろい機会領域が数多く掲載されているため、お問い合わせの際は、まずは気になるトライブレポート名と「〇〇ビジネスをやっています」ということをお伝えしていただければ、我々がトライブレポートをもとにビジネスアイデアをいくつかご提案し、コンサルティングさせていただきます。
あとは御社の持つリソースと掛け合わせて、新規事業の場合はビジネスモデルを変える、または新商品・新サービスを生み出すなど、それぞれの課題に対応いたします。
たとえば、新商品を作りたいという会社の場合、SEEDATAが提携している会社とこのトライブが世の中に何万人いるかを調査し、その人たちにテストマーケティングしてみて伸ばしていくことも可能です。また、サービス開発の場合もプロトタイプを作ることができますし、ビジネスモデルの場合でも、ビジネスモデルに関する検証された知識を手に入れるPoB(Proof of Business)のプロセスに入ることも可能です。
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