第1回、第2回と、岸田さんが学生時代に行った街歩きプロジェクトでのエスノグラフィーについてお伺いし、第1回では「情報を小出しにする」「旅行者に発見させる」という案内人のメンタルモデルを上野の街歩きで発見した話をご紹介しました。
また、第2回では三浦半島で旅慣れた旅行者のエスノグラフィーを行い、いよいよ2つののエスノグラフィーから得られたメンタルモデルを使って、アプリ制作をしていきます。
上野と三浦海岸、メンタルモデルの掛け算から生まれた街歩きアプリ
一上野と三浦海岸でそれぞれ案内人、旅行者のメンタルモデルが得られて、ここから具体的なアプリ制作のお話になるわけですね。
岸田(以下:岸)「アプリ制作では、上野と三浦海岸で得たメンタルモデルを、京都での町歩きならどうすべきかに落とし込んでいきました。京都は碁盤の目になっていて、ある意味迷いにくいし、よりいろんなものを発見できて、初心者にも使っていただきやすいと思ったからです。
旅慣れた人や、街歩きに慣れている人、案内し慣れている人の要素を抽出して、初心者が同じようにするにはどうすればいいのかを街歩きアプリに落とし込んでいきました」
一初心者ってつい、あらかじめガイドブックにあるものを目印にして、順路通り行こうとしてしまいがちですよね。旅慣れた人のようにふらっと歩きつつ、おもしろいものを発見できたらいいなとは思うのですが。
岸「アプリにはiBeaconというBLE(Bluetooth Low Energy)を用いたモジュールを利用しました。実験では実験の範囲内の碁盤の目のすべての交差点にiBeaconを設置して、アプリを立ち上げながらアイビーコンに近づくと、およそ何メートルか類推できるので、自分がどの交差点からどの交差点に近づいたか認識できるようにして、交差点でちらっと情報を出すようにしました。情報を少しだけ出すというのは、上野のメンタルモデルが採用されています。
それにより、ユーザーはきょろきょろ探して、角に来たときにどっちに進みたいかは、その角その角で決めるという体験できるアプリにしました。アプリは基本的には音声にして、困った時にはちらっと画面を見るというかんじですね」
一実際のアプリはどんなインターフェイスだったんでしょうか?
岸「エスノグラフィーとは少し違うんですが、旅行に行く人の中には、旅先を題材にした小説を読む人が少なからずいることに目をつけました。たとえば城崎に行く人が「城崎にて」を読むといったことです。デザイン化するときに、小説的にガイドしたらおもしろいなと思いました。だからインターフェイスも本のようにして、「ここに〇〇がある」ではなく、「私は〇〇を発見した」みたいに一人称視点にして、誰かが先に行っていたような、誰かの視点をなぞらえるような体験にしたかったんですよね」
一ガイドブックではなく旅行記のようなイメージですね。
岸「アプリ内で表示させる画像も写真ではなく挿絵っぽくしたくて、実際の写真にイラスト調になる加工をかけて、縦書きの文章にしました。
ただ、画面見ながら歩かれるのは危険だし、おもしろくないと思っていたので、紙をiPhoneくらいのサイズに切り抜いて製本して、開いたら中にiPhoneが出るようにして、基本的に本って閉じて手に持つじゃないですか。だから基本的には音声で、画面は閉じて補助として使ってもらうようにしました。このように、あえて不便さを作り、歩きスマホを誘発しないデザインとしました。これは、不便益という考え方です。」
「のべる」という名前は、「小説(ノベル)」と「述べる」のダブルミーニングから
岸「エスノグラフィーから実際にアイデアに取り入れたのは、あえて不便さを取り入れるということ、音性を利用するということ、小出しにして発見させるということの3点です。
与えられるよりは自分で発見していくという点は、コアな案内人からピックアップしました。三叉路と四つ角にくるとこの先にくると、なにがあるかを教えるんですが、ヒント的な、興味をそそらせるくらいで留めて、行くか行かないかは人に任せるように作っています。ネタバレ感をだしたくなかったんですよね」
一エスノグラフィーをしてみて、どんな点がとくにおもしろかったですか?
岸「僕が大事だなと思ったのは、おもしろいガイドさんって自分のストーリーを話してくれるということ。ディープな生活に根付いてるような場所で、自分がどうしたとか、こういう人がいたとかストーリーを話してくれる。一人称視点のストーリーのほうがおもしろかったりするんですよね。なので、アプリをつくるときにも一人称視点を採用したんです」
一アプリは修士論文のために作ったものですが、実際に使われたのでしょうか?
岸「はい、実際5人くらいに使ってもらいました。やっぱりみんな思い思い、違う場所に進んで行くんですよね。ちょっとずつ情報を小出しにすると、ちゃんときょろきょろしてくれるし、その分いろんなものに興味をもって、細かいものを発見しながら歩いてくれました」
一ここでも清水寺とか金閣寺とか、観光地らしい場所は外しているんですね。
岸「観光地のど真ん中でない場所で、京都らしい生活が根付いてて、香り屋さんなど京都らしいお店が潜んでいる場所に設定していました。そこは学生時代に僕が住んでいた場所の近所で、きょろきょろせずに歩いたら素通りしてしまうようなエリアなんですけど、案内人の代わりをしてくれるアプリによって、より旅慣れた人っぽく、その町の魅力や、いろんなものを見つけて歩くことを実現できたと思います」
一京都観光というと、どうしても清水寺とか金閣寺とか嵐山など、メジャーな場所を攻めてしまいがちですよね。
岸「清水寺もいいけど、それ以外のエリアってわかりやすいものがなくて、あんまり観光客が来ない。でも実はとても魅力がつまってて、だから魅力を知ってる人と、魅力を知っていて案内してくれる人のメンタルモデルを採用しました。2つのメンタルモデルの掛け算ですね。
旅慣れてない人は、雑誌などで答えを知ってから答え合わせをしに行くような旅になってしまいがちです。こういう旅のたのしさを知ることで、別のところに行った時にも自発的に楽しめるようになると思いますね」
地元の人が普通に行くエリアにこそ、その土地のらしさや良さを知る手がかりがある。そうわかっていても、一歩踏み出すにはちょっと勇気がいりますよね。
そんな旅行ビギナーを手助けする、なにもなさそうに見える場所でも街歩きを楽しむことができるアプリ。失敗も成功も、自分で選んでひとつずつ発見することこそが、旅を楽しむポイントなのだということを、エスノグラフィーを通して教えていただきました!(了)
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エスノグラフィーとは?【学術的な意味からビジネスにおける使い方まで徹底解説!】
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