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SEEDATA
公開日:2020.03.13/ 更新日:2021.06.11

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【後編】snaq.meが売ってるのは「お菓子」ではなく「おやつ体験」-snaq.me代表服部氏×SEEDATA藤井・佐野鼎談-

SEEDATAではこれまで国内外のさまざまなDNVB(Digitally Native Vertical Brand)やD2Cを調査し、その内容を当ブログで発信してきました。今回は日本を代表するDNVBだとSEEDATAが考える、おやつのサブスクリプションサービスsnaq.meの代表・服部氏をお招きし、SEEDATA副社長の藤井と佐野との鼎談形式でお届けします!

SEEDATAきってのDNVBマニア佐野が、snaq.meの哲学を紐解き、snaq.meがユーザーから愛されている秘訣を探りました!

【中編】はこちらからどうぞ。

【中編】snaq.meが売ってるのは「お菓子」ではなく「おやつ体験」-snaq.me代表服部氏×SEEDATA藤井・佐野鼎談-

僕はただサービスが大好きなので、サービスを好きになってくれればいい

佐野:服部さん自身のお菓子に対する義憤や、snaq.meが必要だと思った理由はどこから生まれたんでしょうか?

 

服部:コンサル時代に忙しすぎてご飯を食べる時間がなくて、ソフトせんべいは米だということにして主食にしていました。それで間食習慣ができたんですが、子どもが生まれたことをきっかけに原材料が気になるようになって、少し違和感を感じるようになりました。

マルシェに行くとすごくいいものがたくさんあるのに、そのいいものが何故普通に買えないのかと。

 

佐野:われわれはブランド哲学を作るときに「Don’ts(すべからず集)」を作ります。「これをします」というより「これをしません」といったほうが、ブランドの強さが感じられて、より共感を生みやすくなります。

 

佐野:「〇〇をしない」「〇〇をやめる」という引き算の美学が、ブランド哲学として今の時代で共感が得やすいなと感じています。

僕らはブランド哲学で、しないことだけを明示して、あとは自由にすればいいと思っています。

服部さんのお話を聞いていて、服部さんは暗黙知的にそれを実践しているのではないかと思いました。それが大手メーカーとは違う独自性のような気がします。

 

服部:僕らは売っているのはあくまで「おやつ体験」であって、「お菓子を売ってはダメ」だと最近は言っています。気が付くとお菓子を売ってしまうときがあるので(笑)。

ただ、考え方は結構変わるので、明文化はあまりしていません。そのときに最適なことをゼロベースで考えるので、半年前に自分が決めたことに引きずられたくないんです。スタートアップは柔軟性が大事ですからね。

 

佐野:なるほど。柔軟性というと、僕らは一次情報を大事にしているので、必ず現場に立って直接お客さんと話して、その声によって柔軟にブランドを変えていくということをやっています。

SEEDATAは単体の商品しか置かないマイクロ店舗を恵比寿に持っていて、その店頭に立って接客することもあります。マーケティングにおいて最も重要な行為は接客だと思うので、アルバイトに任せるのではなく、SEEDATAメンバーが直接販売員をしています。

リアルタイムでディスプレイのキャッチコピーや接客の伝え方を少しずつ変えていくだけでユーザーの反応も変わっていくので、どのような哲学をどのような表現にすると、一番伝わりやすいかを現場で比較検証しています。

snaq.meさんにも多くのユーザーの一次情報が集まってくるかと思いますが、その一次情報をどのように扱っているのかをぜひお聞きしてみたいです。

 

服部:調査には定性と定量があります。定量はおやつの評価が返ってくるのでどの商品が人気かが分かり、改善やブラッシュアップに効いてきます。

一方、電話インタビューなどで分かる定性は、改善というより、ジャンプした非連続的なアイデアにつながるので、定性と定量を両建てしていく必要があると考えています。定量データだけ見ていると、どんどん直線的な伸びはしますが、非連続なことは起きない。定性はそういうところを探していくためのものです。

 

藤井:SEEDATAでは確信と確証と呼んでいます。定性は確信を得るため、自分が信じて疑わない何かを見つけるためのもので、定量は確証的にそれが確からしいのかを証明するためのものと捉えています。

また、服部さんも今までとは違うものを作り続けるという意識が強いように感じました。サービスを「つねにアップデートしなければいけない」気持ちはありますか。

 

服部:僕らは昨年と違うことをやると意識しているわけではなく、今やるべきことをしているだけです。結果として去年と状況が変わっているから、やるべきことも変わっているだけで、過去の戦略にあまりこだわりは持っていません。

Webサービスなので当然改善とブラッシュアップが重要ですが、それだけだと先ほど話した直線的な伸びしか期待できないので、ちょっとはずした非連続的なことを僕が探しているような感じです(笑)。

 

佐野:それが商品や冊子にも反映されていますね。全てをパーソナライズしないで、サプライズを2割程度入れるというのも、その現れかもしれません。まさにこれがsnaq.meの哲学だと思います。

 

服部:全部パーソナライズされたらつまらないからそこを自社で崩していくんです。弊社のCOOは改善やオペレーションがめちゃくちゃ強くて任せておけばそこは伸びていきます。一方で僕がやることは、一回売上は下がるかもしれないけれど、そこから成長カーブを変えていくことです。冊子作りや、BOXのデザインを毎月変えるという施策もそうですね。

他にも、以前退会のタイミングを知るためにインタビューしたところ、「食べずにたまってしまうから」ということが分かりました。しかし、これだけでは浅い気付きです。さらに深くインタビューをすると、たまっていく以上に「賞味期限切れにより捨てるという行為がとても罪悪感を生んでいる」というインサイトが分かったんです。そこで捨てるくらいなら寄付しようというアイデアが生まれました。

 

佐野:賞味期限を管理するのが嫌で冷蔵庫を捨ててしまったトライブもいるくらいなので、その罪悪感はありますよね。

 

服部:寄付の中には「これがおいしかったから寄付したい」と送ってくれるユーザーさんもいらっしゃいます。

 

藤井:N1からの分析、意思決定までの流れは、服部さんがひとりでおこなうのでしょうか。

 

服部:捨てることが罪悪感というインサイトから、寄付がいいんじゃないかというところまで僕が出しました。もちろんチームメンバーでブレストすることもあります。その後、寄付の施策を提供するグループ(A)とそうじゃないグループ(B)にユーザーを分けて、最後は定量(A/Bテスト)の結果を踏まえて、意思決定します。

 

藤井:組織として考えると、顧客とつながり、顧客を知るという知識はチームみんなが知っておく必要があると思いますが、会社全体で共有していますか。

 

服部:今はチーム体制にしていて、そのチームがユーザーに電話を毎週しています。そこでディスカッションをいちいち行うとスピード感が無くなってしまうので、多数決は絶対にしないで、とにかく「いい」と思ったら実際にやってみて結果で判断するようにしています。

 

佐野:お客さんの行動で決めてもらうのが一番ということですね。事業者側の考えってバイアスがかかってますからね。

 

藤井:ブランドの浸透は対社内と対社外がありますが、お菓子ではなくおやつ体験など、大事な哲学を押し出していくときに、社内のブランド浸透はどのように行なっているんでしょうか。

 

服部:社内外含めて浸透は下手だと思います(笑)。社内もそんなに浸透しきっているかというとまだまだこれからでしょうね。こうしてインタビューしていただいたものを社内で共有するほうが早いというか、本人が言うより社外の人から言ってもらったほうが早かったりします。

そもそも、いわゆるスタートアップ的な「俺についてこい」というカリスマ性とは無縁で苦手なんです。僕はただサービスが大好きで、サービスを好きになってくれればよくて、僕はそんなに前に出たくないんです。

 

佐野:僕もカリスマ性のないブランド開発に興味があります。海外のDNVBは起業家のカリスマ性が強いから成功しているのではないかと批判されることもありますが、そこをトライブの義憤をヒントにしながら再現性のあるブランド作りをやりたいという想いがあって、今のお話はすごく共感しました。

 

藤井:カリスマ創業者、例えばGlossierであればEmily Weissに共感が集まって、成功したブランドも多く存在します。

一方、創業者がメインには出てこないタイプのブランドもあるかと思いますが、出てこないタイプのブランドを強化するコツはありますか? その場合、どこにブランドの人格や、共感を持たせるとお考えでしょうか。

 

服部:実はあまりそれも意識したことはないんです。もともとブランドを作った経験もなければ、マーケティングも分からず、ただサービスがめちゃくちゃ好きで、サービスをよくすることにしか興味がなくて。そこに集中して、その裏にブランドがちょっと見えるくらいでいいかなと思いますね。

 

佐野:なるほど。やはり主軸はサービスですよね。サービスではリピート率が最重要KPIであり、寄付のアイデアもリピートが目的だったかと思うのですが、リピート施策で他にしていることはありますか?

 

服部:リピート施策には2種類あります。ひとつは翌月無料にするから続けてもらうとか、退会ルートをめちゃくちゃ複雑にするという方法。この方法をとれば見かけ上のリピート率は上がります。

もうひとつは満足度を上げてリピート率を上げる方法。NPSは科学しづらいものですが、僕はその科学しづらいものにあえて挑戦して満足度を上げたいんです。

 

佐野:実は本日の対談に先駆けて、SEEDATAでもsnaq.meのリピートユーザーにヒアリングをさせていただきました。

その方はそれまで、健康には一切興味がなく、純粋におやつが大好きで、メロンのドライフルーツを食べてみたかったがゆえに、snaq.meに申し込んだそうです。その方のリピート理由は「せっかく健康習慣ができたのにやめるのには罪悪感があるから続けている」というものでした。1ヶ月間コンビニのおやつを食べ続けるのは不健康に感じるが、そのうちの1週間はsnaq.meがあるという健康習慣ができたからこそ、続けることにしたそうです。リピートには習慣化が重要なので、入り口はおやつ体験ですが、出口は健康習慣にもなり得るんだなという発見がありました。

 

服部:たしかに。似た声では「コンビニに行く回数が減りました」と言われますね。

 

佐野:習慣形成のひとつとして、Spotifyで独自の音楽のプレイリストを作り、その音楽を聞きながら料理をするという、自炊の習慣づくりを目的としたキッチンウエアのブランドも米国では登場しています。習慣や儀式の作り方についてはSEEDATAでも試行錯誤しているところです。

最初は親子でおやつを食べる習慣を想定されていたんですか?

 

服部:たしかに最初はお子さんと一緒に食べるという方もいましたが、満足度が高いのは自分のご褒美用というユーザーさんでした。むしろ子どもが寝てからひとりで食べる。基本は自分のためですね。

 

藤井:子どもの有/無、健康意識の高い人/普通の人などなど、さまざまな年代がいる中で、ターゲットは優先順位をしっかり考えたうえでアプローチされているのでしょうか。

 

服部:マーケティング上のターゲットは、アプローチしやすい、自分へのご褒美という方々にざっくりおいていますが、ブランドのターゲットは別においています。

最近だとマーケティングのアルゴリズムがすごいので、前に購入してくれた属性に近い属性の方にマーケティングしています。結果的には女性が多いですね。

 

藤井:ある程度の連続性と、それを崩す非連続性を同時に考えられていましたが、ターゲットを考える際も同じですか。ターゲットも変わった方にアプローチしたりするのでしょうか。

 

服部:そこは意識的にやらなければいけないので、たとえば男性向けやお子さん向けみたいなところはアイデアとしては持ちつつ、やるならまったく別で立ち上げます。

男性向けならお酒のおつまみなんだけど基本タンパク質を中心にしたり、子ども向けなら味は優しく量を多めにしたり。

 

佐野:来月からブランドとしてはユニセックスに寄っていくということでしたが、今後のsnaq.meの展望を教えてください。

 

服部:事業計画は一応ありますがあまりそこにしばられたくなくて、株主さんとも信頼関係があるので、株主や投資家と話すときは、直近の課題もですが、たとえば、卸しやコンビニで売るとか、今のターゲットとは全く違うところを狙うとか、どちらかというと非連続的な成長についてブレストしています。

サブスクリプションって申し込みハードルが高いし、やはりおやつは食べてもらわなければ分からないので、一度体験してもらうという意味でも、コンビニはオフラインチャネルのひとつとしてありだと思います。

ただ、卸しとなると価格が厳しいので、ここで収益を上げていこうというよりは、あくまでメインはデジタルで、コンビニは認知拡大、試食体験のためですね。

 

藤井:オフラインチャネルの意味合いは、オフラインチャネルで利益をあげることではなく、あくまでデジタルで利益をあげるためのプロモーションチャネルということですね。

 

服部:そうですね。リアルイベントも実際のユーザーの顔をみれるという理由と、デジタル上のタッチポイントの一部という理由でやっています。

 

藤井:非連続的なことをやるときのインプットは、N1以外にもあるのでしょうか?

 

服部:海外の事例をリサーチするために実際に視察に行ったりしています。あと、これは仕事ではなく完全に自分の趣味として、毎日海外のスタートアップメディアをひとつずつ見ることもしています、ほかに趣味がないんですよ(笑)。

 

佐野:僕も海外のDNVBを調べることは、仕事というより人生の一部なので共感します(笑)。

最後に、ざっくりでよいのですが最近服部さんがよく考えていらっしゃることをお聞きしてよいでしょうか。

 

服部:ブランドを立ち上げるまでならひとりでできる部分もありますが、ブランドを成長させるとなると、組織が大事だと実感していてます。僕らはこれまでブランドもオペレーションも自社でおこなってきましたが、組織として大きくなったときに組織をどう運営していくか、それが次に考えなければならない課題です。

最初の頃は自分で広告バナーまで作って入稿していたし、自分ですべてやればいいと思っていましたが、今はそれができない。これはいろんなブランドがこれから直面する悩みなのではないでしょうか。

 

佐野:チャネルを増やしていこうとするとそれだけで人員も必要ですよね。人員はきちんと哲学を伝えられる人のほうがいいので、私たちも単なるバイトの方よりも、ユーザー、とくにコアファンの方を採用するのがいいと思っています。

 

服部:実はsnaq.meの広報担当者も、もともとユーザーでした。募集もしてなかったのにいきなり「面接してほしい」とメールが来て(笑)。

社内(事業者)と社外(ユーザー)のギャップが小さくなるような、組織作りが今後は必要だと思っています。

 

佐野:本日の内容、非常に興味深かったです。ありがとうございました!

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