SEEDATAではこれまで国内外のさまざまなDNVB(Digitally Native Vertical Brand)やD2Cを調査し、その内容を当ブログで発信してきました。今回は日本を代表するDNVBだとSEEDATAが考える、おやつのサブスクリプションサービスsnaq.meの代表・服部氏をお招きし、SEEDATA副社長の藤井と佐野との鼎談形式でお届けします!
SEEDATAきってのDNVBマニア佐野が、snaq.meの哲学を紐解き、snaq.meがユーザーから愛されている秘訣を探りました!
【前編】はこちらからどうぞ
【前編】snaq.meが売ってるのは「お菓子」ではなく「おやつ体験」-snaq.me代表服部氏×SEEDATA藤井・佐野鼎談-
新しい時代のおやつブランドとして文化を広げていきたい
佐野:snaq.meはお菓子ではなく「おやつ体験」を売っているからこそ、開封体験もサプライズを届けているとのことでしたが、開封体験で参考にしたブランドはありますか?
服部:海外のサブスクリプションボックスはかなり見ました。輸入する時点で検閲で開けられてしまうので厳密には開封されているんですけどね(笑)。
BOXのデザインも最初は四半期に一度くらいで変えていたのですが、ユーザーインタビューで「BOXのデザインがかわいい」という声が増えてきたので、それなら毎月変えようということにしました。
佐野:お菓子と一緒に届く冊子はどんなイメージで作られているんでしょう。冊子のコンテンツがおやつのことに限らず多岐にわたっているなと思ったんですが、どのような意図が込められてるのかお聞きしたいです。
服部:最初はおやつの説明や生産者さんの声を載せていましたが「おやつ体験の価値をあげよう」ということが決まってきたため、食べながら読んでもらうという位置づけで、おやつ時間の価値を上げるコンテンツを目指して、毎月テーマを変えています。
おやつのほうもそうなのですが、満足度が高いユーザーの方に話を聞くと、「8個中6個は自分が好きなもので、残り2個はサプライズ的なもののほうが嬉しい」と言うんです。コンテンツもこれと同じで「こんなこと取り上げるの?」みたいなテーマのほうが受けが良い。おやつの紹介ばかりではサプライズにはならないので、たとえばおやつ絡みのコラムを入れて、読んだあとに同じようなおやつが入っているとちょっと嬉しいとか、おやつBOX同様、冊子にもサプライズを入れて楽しんでもらえたらいいなと思っています。
佐野:おやつだけでなく、冊子にも皆さんの意思、哲学を感じますね。
服部:知りたいことはWeb上でなんでも知れる時代だからこそ、コンテンツにはこちらの意思を反映させることが必要ですし、編集する意味はそこだと思ってます。
佐野:僕は常々、今の生活者はこだわり疲れが起きていて、こだわりを言われることに飽き飽きしているんじゃないかと思ってるんです。こだわりとは事業者の話なので、一歩間違えれば、押し付けだと受け取られてしまいます。
一方われわれの考える理想のブランド哲学は、きちんと生活者の義憤を捉えているので、押し付けではなく共感を呼ぶ、そこがポイントだと思っています。
snaq.meの場合、おやつの品質や製造過程など、いくらでもこだわりを話せるはずなんですが、あくまで提供するのは「おやつ体験」なので話しすぎないという点が、僕たちの考えるDNVBっぽいなと思います。
服部:ブランドもそうですが、押し付けてはいけないんですよね。こうやって使ってくださいと決めすぎず、ちょっとした余白を残して、それぞれのお客さんの文脈に合わせて使ってください、という風にしたほうがいいのではないかと思います。
佐野:あえて作りすぎないということもあるんでしょうか。
服部:こだわり疲れと同様、D2CやDNVBが増えるとストーリー疲れが起きています。Ourstoryも示してもいいのですが、どちらかというとお客さんが自分の中のストーリーとして語れるかどうかが重要で、その材料としてブランドがあるんです。
snaq.meもブランドをリファインして、一応言語化はしますが、押し付けるつもりは全くありません。人も変わっていくように、ブランドも変わっていくものだと思っています。
ブランド人格も一応ざっくりこんなかんじというのはありますが、そもそもペルソナというのがあまり好きじゃないのでがちがちに決めつけたくないんです。
佐野:とても共感します。僕らがペルソナを作る際も、映画のこのキャラクターみたいにしたいとか、アニメならこのキャラクターという風にして全員の共通認識にしています。
服部:snaq.meはリアルイベントも開催しているので、ペルソナではなく、そこに来てくれる人の顔を思い浮かべて「この人に共感されるものを作ろう」と考えるほうが早いんですよね。
藤井:われわれはペルソナを立てていくよりも、自分たちが理想とする一人のユーザー候補「N1」を見つけるまで探して、一人の意見から大切なことを吸い上げていくことを大切にしています。
服部:同感です。僕も乱暴な言い方をすれば、ユーザー全員の意見を聞く必要はないと思っていて、おもしろい意見の人を見つけたらそこを掘り下げるようにしています。
たとえばあるユーザーから「8個届いたおやつをシャッフルして積み上げ、毎回どれが出るのかを楽しみにしている」という話を聞き、そこからおやつタワーのアイデアを得て実際に開発しました。
藤井:SEEDATAのトライブの考え方と近いと思います。僕らは世の中の固定概念とは異なる、独自の考え方を持った生活者をトライブと定義し、彼らの考え方を参照することで、新商品開発や新規事業開発に活かすというリサーチビジネスからスタートしています。
佐野:たとえば就活に私服で行ったり髪を染めた状態で行くという人がいれば、ある種のトライブなので注目します。そのトライブは義憤を持っていたり、独自の哲学を持っているので、それをヒントにDNVBを開発していくんです。
佐野:snaq.meも服部さんの独特な行動から始まっているわけですから、ある意味服部さんもトライブですね(笑)。
服部:海外のDNVBやD2Cって起業家自身がまさにトライブなんです。トライブ自身が、サービスやブランドを作りやすい環境ができたことが、DNVBやD2Cが増えている背景にはあると思っています。
藤井:ブランドの根本となる義憤の探し方には2つあると思います。起業家は自分の内なる義憤を事業にしますが、私たちSEEDATAはトライブの義憤を探してそれを代わりに事業にする、いわばトライブの義憤請け負い型の事業開発なんです。私たちの役割は世の中から義憤を探して、その義憤を解決するブランドを作ることだと思っています。
佐野:snaq.meとSEEDATAにはいろいろ共通項が見えてきておもしろいですね!われわれも今この分野こそが、もっともおもしろい分野だと思って取り組んでいます。
服部:僕自身は自分たちのことをDNVBではなくあくまでWebサービス会社だと思っていて、いかに良いサービスを提供するかだけを考えています。
佐野:私たちはDNVB開発に取り組む前から「スケールしないことをやろう」という考えを取り入れ、初期はPRにお金を極力かけず、いかに熱狂的なファンを作ることができるかということに注力したブランド開発を行なっていました。
今もブランド価値を下げずにスケールする最適な方法を色々と試しながら開発を行なっているのですが、snaq.meはスケールしようという意識はあるのでしょうか。
服部:スケールしようという意識は結構あって、大手メーカーに並ぶような、数十年続くおやつ企業をデジタルから作ろうとしています。
お菓子は軽いし、かさばるし、単価も安いので、ネット販売には向かないものだと考えられていますが、10年前はスマホで服を購入する人がほとんどいなかったように、5年後はネットからおやつ体験を申し込むのが普通になる時代が来るんじゃないかなと思っています。スケールしたいというか、新しい時代のおやつブランドとして文化を広げていきたいんです。
佐野:なるほど。今後はネットで売っていくのか、それともリアルで売っていくのでしょうか。
服部:基本はデジタルで、リアルはデジタルの中のひとつの要素と考えています。海外のブランドの事例を見ると、リアル店舗を出店すると、その州のオンラインのCVRが上がっているんですよね。デジタルの中でオフライン店舗はあくまでメインの目的ではなく、一販売手段であることが重要です。
佐野:DNVBはリアルも含めてDigitally(デジタル化)するというところが僕らの考えと一致しています。最初にこのDNVBという言葉を作ったBonobos創業者のAndy Dunnはすごいですよね。
僕らはDNVBには3つのチャネルが必要だと考えています。ひとつはECという販売チャネルです。よくD2Cと言われるときに注目されるのがこのチャネルなのですが、本当に重要なのはサービスチャネルと哲学チャネルだと私たちは考えています。
これまでは哲学チャネルをメディアやブログが担っていましたが、最近はPodcastやSpotify、メルマガなど、チャネルが多様化しています。この哲学チャネルこそ、可能性があるチャネルだと思っています。
snaq.meは、この哲学チャネルを今後どのように作っていこうとお考えですか。
服部:僕らにとってはそれがユーザーだったりします。ブランドやサービスについて理解しているユーザーの方に哲学を広めていただくのがいちばん早いんです。
海外のインフルエンサーマーケットと日本のインフルエンサーマーケットの大きな違いは、日本はお金を支払って宣伝してもらうのに対し、海外では本当に共感してくれる人を見つけて一緒に作っていくスタイルだということです。
佐野:ユーザーが語りやすくなるように意識していることはあるんでしょうか。
服部:BOXのデザインもそうですが、届くと誰かに話したくなる設計を意識しています。
ユーザーの中にはBOXを使って工作をしている人や、独自にラッピングをしてギフトとして贈ってくれる人、snaq.meのネイルを入れる人、おやつのスクラップブックを作ってくれる人などがいます。
でも、それらをブランド側から「こうしてください」と頼むのは違うんです。ブランドを作りこみすぎないで「自由に遊んでください」という余白を持たせているんです。あくまでブランドは材料なんです。押し付けないで、ユーザーに解釈してもらうことが重要です。だからユーザーごとにブランドの認識が違っていても別にいいんです。
佐野:僕は世の中で一番苦手なのが押し付けなんですが、ブランドって一歩間違えると、こだわりの押し付けになってしまいますよね。ブランドはユーザーにとってある意味おもちゃのような存在というのが実におもしろいですね。
藤井:お客さんとの付き合い方という点で、カスタマーサポートやファン作りはどのようなことを行なっているのでしょうか。
服部:カスタマ―サポートは基本LINEでおこなっています。そこの距離感は普通のお菓子メーカーよりも近くて、LINEでスタンプを送り合うような仲です。
コミュニティは好きな人も苦手な人もいるのでTwitterやInstagramなどソーシャルのほうがよかったりします。僕自身もオフラインのコミュニティはあまり得意ではなくて(笑)。
ゆるやかなコミュニティがSNS上にあるのはいいんですが、そこも強制したくなくて、つながりたい人だけがつながっているくらいがちょうどいいと思っています。
(後編に続きます)