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SEEDATA
公開日:2019.10.30/ 更新日:2021.06.09

DNVB

【DNVBの事例⑫】Pixleeが発表したDNVBの考え方

SEEDATAではこれまでもDNVBについて解説してきましたが、DNVBの先駆けであるアメリカでは、DNVBに関する研究も進んでいます。SEEDATAも現在DNVBのコアファンに対するユーザーリサーチを行っていますが、今回は米国でビジュアルマーケティングプラットフォーム企業のピクスリー(Pixlee)が2018年に発表したレポートをもとに、DNVBの捉え方について分かりやすく解説をいたします。

ご興味のある方はまず以下のレポート(原文)をご覧ください。

Digitally-Native-Brands-2018_FINAL.pdf

※外部サイトにリンクしています

eコマースとDNVBの誕生

まずDNVBのブランドが生まれた背景について簡単におさらいします。インターネットの普及と共に、2000年頃から消費者がオンライン上で商品を購入するという流れが登場し始めました。オンライン販売に取り組む企業が増えたことで、特にアメリカでの小売り業界は大きなダメージを受け、倒産や規模縮小などを余儀なくされており、この傾向は未だに続いています。言うまでもなく、これがeコマース(Electronic Commerce)です。

ただしeコマースという言葉が意味することは、モノを売ることがオンラインのみに完全にシフトするわけではなく、オンラインはあくまで有効な「販路のひとつ」として捉えられていたというのがポイントです。それが2010年頃になると、それまでのeコマースとも、リアルな店舗で商品を売っていた伝統的な企業とも異なる性質を持つブランドが非常に勢いを持ち始めました。それがDNVB(Digitally Native Vertical Brand)です。

eコマースとDNVBの違い

DNVBはVコマースと呼ばれることもあります。ここでeコマースとVコマースを簡単に比較することで、DNVBの特徴についての理解してみたいと思います。

eコマースの根本にある考え方は低コスト性です。物理的な店舗と違って オンラインで商品を売る場合は、人を管理する必要がありませんし、近所に暮らす人だけではなく世界中の人々がオンラインで注文することが可能になる優秀なチャネルです。

一方、Vコマースは違った考え方を持ち、自社ブランドの商品をオンライン上で売る際、自分たちのアイデンティティやブランド哲学をかなり強く打ち出しています。つまり「より世界中の人が注文してくれる優秀な販路」としてオンライン販売を捉えるのではなく、「自分たちのブランドの哲学や世界観を伝える手段」という側面を非常に重視し、共感してくれる人に対しての重要なブランドとしてのタッチポイントとして捉えているのです。

ブランドの哲学や世界観が崩れることを危惧するので、無理にリアル店舗を出そうとするDNVBブランドは少なく、仮にリアル店舗を出す場合も、どのリテールと手を組んで商品をおろすか、自分たちのブランドの伝えたいことが商品を卸す流通企業によって影響を受けないよう慎重に選択しています。

DNVBの4つの特徴

ではDNVB(Digitally Native Vertical Brand)とは具体的にどのようなブランドなのか、以下の4つの特徴をみていきましょう。

①顧客だけではなく製造元ともつながる

顧客に対して流通業者を挟まずに商品を売る販売形態をD2C(Direct to Consumer)と呼びますが、DNVBは顧客だけではなく自社製品の製造元とも直接つながっています。

製造元と仲介者なしで繋がることのメリットの一つはコスト削減です。レポートによると2%~4%の製造コスト削減につながり、それを利益として計算した場合数億円の違いが発生すると示されています。これは古くからある業界であればあるほど影響が大きいとされています。たとえば、眼鏡ブランドのWarbyParker(ワービー・パーカー)や、マットレスブランドのCasper(キャスパー)など、伝統的な耐久消費財に関してはこれだけで相当な利益が生まれるそうです。

メリットはコスト削減だけではありません。製造側と密にコミュニケーションを取ることができるようになると、顧客からフィードバックを得て商品のかゆいところに手が届くような変更を非常に速いスピードで、かつ齟齬することが可能になります。例えば、製造原価を公開することでファンを獲得しているアパレルブランドのEverLane(エバーレーン)などは、顧客のフィードバックに応じて低価格を維持しながらも、商品の改善を迅速に行っています。

顧客と直接やりとりをすることで、従来は流通業者が獲得していた顧客データを 自社で手に入れることができるだけでなく、それらのフィードバックを活用してすぐさま新商品を開発したり、現状の商品を改善したりすることができるのです。

②ブランドが体験を提供する

DNVBは、自社の哲学や世界観を伝えることを大切にすることを述べましたが、それを顧客に届けるための体験をどのように作っているのでしょうか?

広告や商品パッケージなどはもちろんですが、Webやリアル店舗などの購買を行う際の購買体験、商品が家に届いて箱を開ける瞬間(Unboxing)、商品使用時、またカスタマーサポートですらブランドの哲学を伝えるための重要な接点として捉えています。①で説明したように、リテールも自分たちでパートナーシップ組んで提供しているからこそ、コントロール可能といえるでしょう。ここではDNVBブランドが重要視しているブランド体験提供のタッチポイントについてご紹介します。

1.カスタマーサービス

DNVBはカスタマ―サービスが与える顧客体験に注力していることも特徴です。返品手続きなどは、不満を解消するための対応ではなく、ブランドを好きになってもらうチャンスと捉えています。SEEDATAでは、コスメブランドのGlossier(グロシエ)のユーザーに返品に関して調査したことがあります。化粧品は自分の肌質に合うか、色味が合うかなど、試してみないと分からないことが多く、オンラインで購入する際のハードルが高い商材であり、ユーザーもやはり返品のしやすさを重視しています。Glossierは、 公式には返品無料とは謳っていませんが、購入者が違和感を感じてカスタマーサポートに連絡をすれば、カジュアルな文言で「わざわざ返送しなくて大丈夫」と連絡がきます。さらに、より適した商品を紹介してくれるなど本来ならネガティブな感情になる返品という瞬間を、ブランドに対する愛着を高めるような瞬間に変えているのです。

2.SNS

InstagramやFBでシェアしたくなるような、美しくてかわいいビジュアルも 基礎的ではありますが非常に重要なポイントです。レポートによると、Glossierの売り上げの90%はInstagramのファンからの売り上げとされています。しかもInstagramを通じて購入したユーザーの購入動機を調査すると、Instagramで他のユーザーが購入したという投稿を見て「いいな」と思い他の人が購入するという好循環が生まれています。SNSで何をどのように投稿するかということに感して、自社チームだけで取り組むのではなく、デザインエージェンシーと協同で徹底的に設計している様です。

3.Unboxing(開封の儀)

以前こちらの記事(※リンク)で紹介した、Unboxing(開封の儀)という体験といった、自宅に届いて商品開ける瞬間もユーザーとつながるチャネルのひとつとして非常に重視しています。

このように、店舗まで自社でコントロールし、返品含めたカスタマーサービス、Unboxing、SNSでシェアしたくなるような世界観と、さまざまなチャネルの体験が徹底して管理されているのです。

では、これらの体験をしたユーザーが次にどのような行動をするのか。もうお分かりだと思いますが、人びとはInstagram、Twitter、Facebookといったさまざまなソーシャルメディアで、ブランドを通じて自分が体験した内容を発信し、信頼のあるユーザー発のコンテンツが生まれます。これが、従来のブランドのように莫大な広告費や宣伝費をかけず、オンライン上でユーザー起点のコンテンツがどんどん広がる好循環を生み出しているのです。自社でコントロールできるところは徹底的にコントロールすることで、生活者の会話も促進され、自分たちでコンテンツを作る必要はなくなるうえに、ブランドの届けたいメッセージや哲学が世の中に広がっていくという好循環が生まれます。

③D2C(Direct-to-Consumer)

DNVBよりもD2Cという言葉を読者のみなさんもよく耳にすると思います。D2Cという呼称が語っているのは「小売業者を仲介せずに顧客に商品を直接販売する」ということであり、それはDNVBの持つ一つの特徴に過ぎません。ただし、DNVBについて考える際に非常に重要な特徴です。

D2Cの利点は、前述したとおり、自分たちでどこにどのくらいの商品を流通させるかを決定できるだけでなく、流通先をコントロールしてるからこそ、ブランドの哲学を自分たちが伝えたいように伝えられるという点です。また、そうすることで顧客情報を中抜きされずに自社で収集することができるという点も非常に重要です。これらのデータは新商品を作る際にも活用できるのはもちろん、顧客と直接つながっているからこそ、プロトタイプを作った際にもすぐさま自分たちでユーザーに反応を伺うことが可能です。

ヨガ製品を作っているアロヨガというDNVBブランドは、2007年からEC展開をしてきましたが、2017年に初めてのリアル店舗をビバリーヒルズに作りました。この店舗は商品が陳列してあるだけではなく、ヨガやその他のフィットネスもできるスタジオやコンブチャが飲めるラウンジも併設されるなど、ヨガを嗜好する、あるいはアロヨガのファンのライフスタイルすべてを体験できる設計となっています。ここでは新しいヨガ製品を貸し出してヨガクラスに参加してもらったり、フィットネス製品などのテスト製品を使用してもらったり、直接ユーザーと対話しながらブランドの世界観を伝えられるという特徴があります。D2Cと聞くと、リアル店舗を持たずにオンラインで顧客に直接商品を売る様子を想像してしまいますが、このように自社で物理的な店舗を持つこともD2Cの一形態となります。

④SNSを通じた顧客との関係性の築き方

たくさんのファンとブランドがつながる、つまり交流ができる場所として、ソーシャルメディアの活用も非常に重要視されています。ベインコンサルティングの調査では、67%の顧客は「自分の使用している商品を提供する企業のSNS上のアカウントをカスタマーサポートとして使用している」といい、ブランドと顧客でSNSで関係を築くのは当たり前になっているのです。その中で72%のユーザーはブランドに対して「問い合わせをしたら1時間以内に返答がきてほしい」と考えていますが、現状、生活者が発信した問い合わせの5/6の無視されており、ユーザーは「もっとエンゲージメントしてほしい」と考えています。ここでブランド側がユーザーにレスポンスした場合、無視をした場合よりも20%~40%以上多くお金を使うことも分かっています。

このように、DNVBはとくにSNSを使った顧客とのインタラクションを重視します。

ユーザー側からの問いに対する返信はもちろん、GlossierはInstagramのストーリーを活用して「新しい製品の色はどちらがいいと思いますか?」など顧客とインタラクションできるコンテンツを積極的に配信しています。ミレニアル世代やジェネレーションZと呼ばれるような人々は、情報収集の方法やブランドとの関わり方として、SNS上のカジュアルな関係性がしっくりくるからこそ、DNVBブランドとも非常に相性がよいといわれています。

成功しているDNVBブランドは、SNSを通じてこれまでとは違う形で顧客と関係を築いているという話がある一方で、FOMOやSNS疲れというキーワードも無視できません。(※GinLaneの話をリンク) FOMOとは、基本的には自分のウォールに流れてくるすべてのデータを見なければ何かを見逃した気がしてしまうという感覚です。FacebookもInstagramもTwitterも、ビジネスモデルとしてはユーザーが見てくれれば見てくれるほど広告費が入るため、滞在時間を長くすることをKPIにしてプラットフォームを作ってきました。

しかし、成功しているD2C、DNVBブランドは、ユーザーにずっと見させたり、つねにアテンションを要求するようなこれまでのSNSとはKPIの設定が異なります。アテンションではなくエンゲージメントを重要視しているのではないでしょうか。いくら顧客の注意を引いても、ブランドの世界観を伝えることができなければ意味がなく、むしろストレスを与えていることになりかねません。

ここはまだ研究の余地がありますが、DNVBは、無駄な情報やノイズになる情報は極力提供しないようにしています。ブランド側は哲学は主張するが、あくまでその哲学に共感した人が意見を述べたり参加できるようなエンゲージメントのとり方をし、哲学に共感した人がどんどん感動した瞬間をシェアすることで、必然的にアテンションを要求するノイズではなく、見る価値のある意味のある情報に転換されている、という仮説が考えられます。

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