当ブログでは、以前D2CとDNVBの違いを解説した記事を公開しました。再度おさらいをすると、D2CとはDirect-to-Consumerの略で、従来の意味は、流通や小売業者を通さず、デジタル上で消費者に対して直接モノを売るという業態でした。DNVBも「デジタル上で消費者と繋がってモノを売る」という点は一見同じように見えますが、DNVBの特徴は、オンライン上で全てが完結するのではなく、リアル店舗やイベントなどをオフラインの場も活用しているという点になります。ECサイトのように「オンライン上のみで完結しない」ということがポイントです。
「オンラインのみで完結しない」DNVBの戦略
まずは以下の記事をご覧ください。
不動産調査会社Green Street Advisorsの調査によると、デジタル・ネイティブ・バーティカル・ブランドがオープンした実店舗数は全米で600店舗以上。Warby Parkerだけで100店舗近くを展開している。
Warby Parker は店舗のロケーションを決定するために高度な市場調査を実施しただけでなく、実店舗が提供するエクスペリエンスによって、自社のデジタルアイデンティティを補完されることを重視し、実店舗小売への移行を成功させている。
出典: https://ecclab.empowershop.co.jp/archives/57708
普通に考えると「店舗を持たずにオンラインのみで販売したほうが出店コストがかからないため、費用対効果は高い」と考えがちですが、最近の調査では「リアル店舗を持つほうが、返って費用対効果が高い」という調査結果も出ています。
必ずしもオンラインが効率的で、費用対効果が高いというわけではなく、やり方次第ではリアル店舗とオンラインを連動させながら、一緒に売っていくほうが費用対効果が高くなるということです。
もちろん100店舗を出店するのにはかなりの費用がかかりますが、Warby Parkerの事例は、100店舗出店した方がブランドの認知も高まり、顧客とのタッチポイントも増え、より収益を伸ばすことができるという、リアル店舗とオンラインの連携の可能性を表しています。それと同時に、オンラインのみで売ることの限界も表しているといえるでしょう。
ECサイトで購入する人はまだまだデジタルネイティブ世代が中心で、ユーザーの属性が限られています。Warby Parkerは「最初にオンラインで購入することにハードルが高い人には、まずは直接店舗に来てもらい、店舗には在庫をおかずにオンラインで購入してもらうという手順を踏んだほうが購入率が高い」ということをデータ的に証明しているからこそ、現在店舗数を続々と増やし、スケールしているのです。
他の事例として、これまで絶対にオフライン店舗でしか売れなかったマットレスをオンラインで売ったCasperという米国のブランドがあります。「100日間返品無料」にすることで、消費者の最初の購入ハードルを下げることに成功したブランドです。
マットレスをオンラインで売ることが特徴的だったCasperもオンラインだけで売ることには限界を感じ、最近リアル店舗を出店しました。
Casperの世界観がしっかりと設計されたリアル店舗では、Casperが販売しているマットレスで15分、30分、45分、90分を選び、仮眠体験をすることが可能です。
また、日本の事例としては「基本的にオフラインで購入される(ネットでは購入されない)スーツをオンラインで売った」という実績を元に資金調達に成功し、リアル店舗を作ったFABRICTOKYOがあげられます。リアル店舗では試着や採寸のみをおこない、購入はオンラインで行うという仕組みを作りだし、多くの投資家から注目を集めているブランドです。
他にも日本には、キュレーションしたチョコレートを届けるminimalや、ファッションブランドのAllyoursも、リアル店舗をユーザーと繋がる場として大事にしているブランドがいくつも存在します。
D2Cはもともと「店舗ではなく、オンラインで売る」という考え方から始まりましたが、「オンラインでうまく売るためにはリアル店舗を活用する」という考え方にシフトしてきているということです。
DNVB向けに店舗スペース+運営ノウハウを提供するサービスが登場
このDNVBの考え方をさらに加速させるのが、今回ご紹介するNeighborhood Goods、B8ta、Re:store、Bulletinといった店舗スペースの間借りサービスです。デパートの一部分や空き店舗をDNVB向けに貸し出すサービスになっています。日本でもスペースマーケットや軒先ビジネスといった空間や店舗の場所だけを貸しているサービスはありますが、このサービスの特徴は、店舗の接客指導やスタッフ管理、在庫管理、運営なども含めてサービスとして提供してくれるという点です。
これらのサービスの画期的なところは「どんな人が来店したか」という定量データや「どのような接客をしたら売れたか」という定性データを分析し、ブランドにフィードバックすることが可能だという点です。
SEEDATAでも最近、デパートなどの空きスペースにモニターと説明員を配置し、商品について説明し、どんな接客をしたら買ってくれたかという定性データと、そのときに消費者がどんな反応をしたかをカメラで分析した定量データをセットで分析し、コンセプトの改善、販売へとつなげるSD/Rというサービスをスタートさせています。
スペースだけでなく、運営サービスごと貸し出しをおこなうNeighborhood Goods、B8ta、Re:store、BulletinなどはSD/Rの目指している姿とかなり近いといえるでしょう。
これらのサービスは、ブランド側もサービス側も、双方にとって大きなメリットがあるように設計されていることがポイントです。
・ブランド側→どんな言葉を投げかけたら、どんな生活者が購入してくれるのかという一次情報を入手できる
・サービス側→商材のジャンルごとに、どんな言葉を投げかけると売れるのかという、ノウハウが溜まっていき、別のブランドを手がけた際には、ノウハウを横展開できるようになる
このように「店頭での声がけを少し変えるだけでも売れ行きが変わる」という点に着目し、プロの販売員が接客を行い、店舗運営をしたデータを収集・分析し、そのリアル店舗からのフィードバックをもとに、オンライン上のランディングページのキャッチコピーやデザインの改善を繰り返すという、オンラインとオフラインの融合・好循環が生まれているのです。
これまではオンラインサイト上でのABテストは実施されてきましたが、オフラインの場でも定性データと定量データに基づいてABテストをひたすら繰り返すことができるようになるというは最大の強みだと言えます。
日本ではスペースのみの貸し出しサービスはありますが、接客や店舗運営のノウハウといったソフト部分の貸し出しまで付属したサービスはまだありません。接客や店舗運営のノウハウ、在庫管理のノウハウまでも含めて請け負い、分析結果をフィードバックしてくれるようなサービスが今後求められていくのは間違いないですし、SEEDATAが先駆者としての役割を今後担っていければと考えております。