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Written by
林 直也
アナリスト

【トライブレポート紹介70】経済的独立を通じて不安やストレスのないライフスタイルを目指すトライブ:FIRE

はじめに~トライブレポートとは

SEEDATAは今後増えていくであろう考え方や行動を示している先進的な消費者グループ=「トライブ」を独自のリサーチによって発見、定義し、調査した結果をレポートにまとめています。

トライブ・リサーチから得られた知見を通じて、推進される企業のイノベーション活動を「トライブ・ドリブン・イノベーション」または「トライブ・マーケティング」と総称し、コンサルティング、支援を行っています。

トライブレポートの詳細と読み方については、こちらの記事をご一読いただければ幸いです。

トライブレポートの読み方

FIREとは、経済的独立(Financially Independent)早期退職(Retire Early)の頭文字を取った言葉になります。

支出を抑え投資を通じて資産を増やしていくことで30〜40代、早ければ20代という若い年齢で不労所得だけで生活できる状態を目指すという先進的なライフスタイルは、2010年代よりアメリカで注目を集め始め、今ではFIREの考え方を用いた生活を送る人びとが増加し、FIREムーブメントと呼ばれるようになっています。

SEEDATAでは2018年から着目をしていましたが、昨今では日本でも新聞や雑誌などでFIREムーブメントが紹介されはじめるなどしており、少しづつ世間にも知られ始めているトレンドとなっています。

SEEDATAでは、FIREは経済的不安を和らげながら、家族と過ごす時間や好きなことに使える自由な時間を手に入れつつ、幸福度を高める生き方として捉えています。経済苦や人間関係のストレスに悩まされるアメリカ・ミレニアル世代から強い支持を得ているだけでなく、日本も含めたその他の先進国でも広がりつつある考え方です。

本レポートでは、FIREを実践している人たちを単に「早期退職を目指すエクストリームな人」と捉えるのではなく、「日常生活から不安を取り除くために創意工夫をこなしてライフスタイルを構築する人」という視点で、彼らがどのような考え方の元、このような特徴的な生活を目指しているのかを分析しています。

FIRE登場の社会的背景

まず、本レポートでは米国のミレニアル世代と言われる25~40歳くらいの人びとを調査しました。

SEEDATAのブログではたびたびご紹介してきましたが、彼らは大学卒業と同じタイミングでリーマン・ショックが発生、30代になり生活が安定し始めた矢先にCOVID-19によるロックダウン発生など、これまでの社会人生活において常に不景気に襲われ、アメリカ史上でももっとも経済的に困難な世代といわれています。

また、ネット技術の発達により、常にSNSや仕事からオフになれないことから精神的に強いストレスを感じている世代でもあります。これらの理由から、鬱が公に語られるような土壌が形成されたり、ヨガやマインドフルネス、瞑想が流行していることは既にご存じの方も多いでしょう。


このような経済的不安、精神的疲労が広がる中で、Mr.MoneyMustacheと名乗る人物が2011年にFIREについてのブログ開設したことがきっかけとなり、ネット上でコミュニティが生まれ、様々な人が追随する形で自らのFIREの体験談をブログやポッドキャストなどにすることでFIREは大きなムーブメントとなりました。

今回のリサーチでは、仕事のストレスと経済的不安を、早期リタイヤと経済的独立というアプローチで解決する新たなライフスタイルとして捉えています。

レポート本編では、このようなライフスタイルが流行したきっかけについても詳しくまとめているため、興味のある方はレポート本編をご購入ください。

 

無駄な消費の大部分を省いたライフスタイル

今回リサーチをおこなった人びとは、基本的に外食はせず自炊をおこない、趣味もランニングや浜辺の散歩など徹底してお金をかけずに過ごし、住居費も家賃の高い都市部から郊外へ引っ越すなどさまざまな工夫をしていました。

アメリカの都市部は食べ物も家賃も物価が高額なため、一般的に高収入といわれる職業であっても、長期的に生活が向上すると感じられない現状があります。

FIREの基本的な考え方は、消費を中心とするライフスタイルではなく、無駄なお金を極力遣わず支出を下げて貯金をすることで、「10年後には不労所得だけで生活できる」状態を目指すという考え方です。

FIREを実践する人たちが参照する基本的な投資のルールに、4%ルールというものがあります。これは年間4%であればほとんど安定して利益を生み出せるという理論です。例えば1000万なら年間40万、6000万なら年間240万になります。年間240万円を不労所得として生み出せることができれば、支出を極限まで下げればそれだけで生活することが可能になります。もちろん1年間に必要な金額は人によって多少変わりますが、6000万を運用していけば働かずに好きなことをして暮らしていけるというひとつの基準となっています。

実際にインタビューをおこなった対象者は、車を持たず、カフェでコーヒーを買わず、外食を減らすなどさまざまな工夫をして、3人家族で1年間に使用するお金を250万円に設定し、残りを貯金に回していました。

これまでのように株や仕事で一発儲けようという考え方とは異なり、あくまで自分が幸せを感じられる範囲で消費行動をしながらも、無駄な消費の大部分を省いたライフスタイルが彼らの特徴です。

FIREのインサイトと未来洞察

調査で分かったFIREの価値観の中でとくに重要なのが「ストレスの原因に対する捉え方」です。

FIREの多くは、仕事での人間関係が自分の人生で発生するストレスの主要な原因と考えていることが分かりました。自分の人生に上司がいる限り、クビにされないよう気を遣わなければならない、また彼らとのコミュニケーションに気を使わなければならない、ということが悩みの大きな部分を占めているのです。

そのため、経済的独立を達成したあとの生活に憧れながらも、まだ冒頭の目標額に達していない人たちは、仕事選びの際によりよい関係性が構築できる上司がいるかどうかを強く重視することで、仕事および上司との関係性から生まれるストレスをうまく軽減していました。

彼らが最終的に目指すのは、金銭的に裕福になり豊かに暮らすことではなく、ストレスのない健康的な生活を送ることであり、そのために資産運用をおこなっているのです。

ストレス軽減のためにマインドフルネスや瞑想、運動などの行為も用いられていますが、頭の中でストレス対策をしても、根本的なストレス原因となる仕事や関係性の悪い上司を排除することはできません。ストレスが発生する原因が存在する限り瞑想も一時的な対処に過ぎません。

ストレスの発生源を人生から排除しよう、その際に主要なストレスの発生源が、経済的不安であり、経済的不安につきまとうのが仕事によるストレス、特に上司との摩擦だと考えているのがFIREの特徴の一つと言えるでしょう。

生活者変化行動仮説:ストレス源排除欲求の増加

今までは「人生とはストレスと付き合っていかなければいけないものであるから、ストレスに対する賢い対処方法を生活の中に取り入れよう」という考え方が主流でした。その結果として、ヨガ・フィットネス・ランニング・ハイキング・キャンプ・瞑想などの行動が人気を博してきたと整理することもできます。

しかし、FIREの考え方は「ストレスに対して真正面から対処したい。ストレス源を人生から排除するようにライフスタイルを思い切って設計しよう」と考えるのがFIREの強い動機です。そうなると、日々の瞑想や週末のキャンプでは物足りなくなります。田舎に引っ越して支出を切り詰める代わりに、気が合う上司のもとで好きな仕事をしフリーランスをすることで収入を増やし、虎視眈々と10年計画を立てて資産を形成していく。

そうなると会社でのポジションや地位などの今まで当たり前だと考えられてきた社会的な成功とは無縁の生活を送ることになります。これがFIREの求めるライフスタイルです。

これまで重視されていた収入条件の良さよりも、人間関係のよい職場で働きたいという人が多くなるでしょう。転職、引っ越し、離婚など、ストレス源となっているものを特定し、それに対応するために抜本的な生活スタイルを変える意思決定をする人が増えていくのではないかと我々は考えています。

たとえば、転職する際は業務内容と自分の生活スタイルの合致や報酬だけでなく、上司や同僚との関係でストレスなく働けるかどうかを事前にチェックしたり、引っ越しの際は駅近や築年数などの従来の条件だけではなく、天候や近隣住民の様子なども含めてストレスなく気持ちよく生活できるかという視点で不動産が選ばれるようになっていくのではないでしょうか。

さらに、ここから考えられるビジネスチャンスのひとつが、引越し、転職、結婚、進学など、あらゆるマッチングサービスでの事前のストレス度の調査です。上司との相性の確認、結婚前の支出観のすり合わせなど、マッチングを促す評価軸も変化していくことでしょう。

 

今回のレポートはアメリカの先進的な生活者をもとに作成しましたが、日本でも働き方の多様化が進み、収入の多さよりストレスの軽減を目指す人びとは増加していると考えられるでしょう。特に2020年のパンデミックによって、ライフスタイルを見直す人は特に増加するのではないでしょうか。その際に、FIREという特殊な考え方を持った人たちの価値観や行動様式を分析した本レポートはヒントを与えてくれると考えています。

本記事でご紹介した内容はトライブレポートの一部となります。トライブレポート本編の内容につきましては、information@seedata.jpまでお気軽にお問い合わせください。

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