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SEEDATA
公開日:2020.07.15/ 更新日:2021.06.11

トライブ(tribe)

【トライブレポート紹介60】ファン消費の未来(ソーシャルパトロン)

SEEDATAは今後増えていくであろう考え方や行動を示している先進的な消費者グループ=「トライブ」を独自のリサーチによって発見、定義し、調査した結果をレポートにまとめています。トライブ・リサーチから得られた知見を通じて、推進される企業のイノベーション活動を「トライブ・ドリブン・イノベーション」または「トライブ・マーケティング」と総称し、コンサルティング支援を行っています。トライブレポートの詳細と読み方については、こちらの記事をご一読いただければ幸いです。

トライブレポートの読み方

近年ファン活動における消費体験に変化が起きています。「SHOWROOM」をはじめとした投げ銭可能なサービスが台頭して以来、生活者はライブやグッズ購入などの現地に赴くファン活動を楽しむのではなく、自宅にいながらもコンテンツを視聴・体験し楽しむようになってきています。アイドルが行うライブストリーミングサービスだけでなく、クリエイターが自らの作品を投稿してそれを見た支援者が投げ銭をするクラウドファンディングのようなコンテンツプラットフォーム型投げ銭サービスや、自分の思想や価値観、思いを綴った記事を投稿して投げ銭を集めるブログ型投げ銭サービスなど既に多くの投げ銭サービスが登場しています。

モノを購入したりサービスにお金を払ったりする今までの消費体験と比較すると、配信中にソーシャル上でお金を投げることができる投げ銭は、支払った金銭に対する直接的な見返りがないという点で大きく異なりますが、それにも関わらず、アイドル・クリエイターのファン達は既にこれらサービスを使い、多くの金銭を投資しており、投げ銭市場は年々拡大しています。

本レポートでは、これからの時代に生活者はファンとしてどのような顧客体験を求めていくのか、ファン消費の未来を分析します。

 

通常、パトロンとはなにか活動をする際に出資してくれる人を指しますが、今回はソーシャル上での投げ銭といった支援活動をおこなう人びとを調査したため、トライブをソーシャルパトロンと命名しました。

購入型クラウドファンディングはモノに対する投資、株式投資型クラウドファンディングは企業に対しての投資でしたが、ソーシャルパトロンはアイドルやクリエイターなどの活動を、人をベースに応援する人たちです。

その中でも今回リサーチしたトライブは、労働力と資金力、支援目的とエンタメ目的という軸に分かれています。

横軸は金銭提供と労働力提供に分類されます。

金銭提供

アイドル活動や創作活動の支援をお金を通しておこなう

 

労働力提供

アイドルの配信中にYouTubeの字幕を入れたりWikipediaページを作成するなど労働力を使って創作活動の支援をおこなう

 

一方縦軸は目的で、支援目的とエンタメ目的に分類されます。

支援目的

労働力提供や投げ銭してクリエイティブ活動の継続を支援する

エンタメ目的

クリエイターやアイドルが自分の投げ銭したお金で「こんなことをしました」「こんな作品を作りました」という報告をエンタメを消費する文脈でおこなっている

 

今回調査したソーシャルパトロンの特徴的行動(トライブプロファイル)のひとつが、ソーシャルパトロンはもともと全員が投げ銭をもらった体験があるというものです。

アイドルや、noteなどで活動をしていた経験を持っており、そのような自分のクリエイティブ活動を支援してもらえた体験が、支援するトリガーになっていることが分かりました。

 

このプロファイルから考えられるビジネスチャンスが、人を応援するプラットフォームに重要なのは、自分も一度投げ銭を受ける体験をUXに組み込むことです。

たとえば、Twitterは最初に10人フォローさせることでその後のTwitterの利用率が飛躍的に変わるというデータがあるように、継続理由となるトリガーを作っています。

そこで、まず自分が作ったコンテンツをライトに配信できて、それに対して少額でも投げ銭をしてもらえるようなUXを組み込めれば、ソーシャルパトロン的な人が育つのではないかという発見がありました。

ただし、TwitterやFacebookの「いいね」のような無償でできるリアクションは既読と同じで形骸化していると考えられるため、少額でも金銭が発生することが重要です。

 

ソーシャルパトロンが投げ銭をするもうひとつの特徴として、「良質なものはきちんと記憶にきちんと残したいから少額であってもあえてお金を払う」という発言がありました。

コンテンツがありふれている世の中で、自分の頭の中で、無料で消費できたコンテンツと、お金を払って消費したコンテンツに分類されているといいます。

無料コンテンツはたとえ良質であっても雑多なコンテンツと同じ場所に記憶され、記憶に残りにくいため、あえて身銭をきることで意識的な差別化をはかり体験を密にしているのです。

投げ銭は100円程度の少額からできるため、ディープなファンがおこなう「円盤を買う」という行為よりもっとライトに支援をおこなうことができます。

 

ソーシャルパトロンのような行為が生まれた大きな社会背景に、リキッドコンサンプション(消費の液状化)があげられます。

シェアリングエコノミーやAmazonなどのインフラが整い、消費者は以前に比べ自分の欲しいものに出会いやすくなり、アクセスもしやすくなったため、ブランドスイッチが早くなっています。

たとえば、以前は50000円出して購入しなければ手にできなかったものが、サブスクリプションで月500円で体験できる世界にわれわれは生きています。

消費の液状化はこれまで日用品や耐久財で近年、言われ始めてきたことですが、この現象はアイドルやクリエイターの世界にも共通することで、これまではひとりの人やコンテンツを深く応援してきましたが、テクノロジーの発達により、noteやSHOWROOMのような投げ銭プラットフォームが登場し、自分が知らなかったアイドルやクリエイターがどんどん登場し、出会えるようになったのです。

だからこそ、50000円でひとりを長期間応援するよりも、100円、500円と少額でライトに応援しながら、違う人やモノも応援できる余力を残し続けているというのが重要なポイントになります。

 

これまでアイドルやクリエイターを応援する場合、ライブに行く、個展に行く、グッズを買うなどしか応援の仕方がありませんでしたが、SHOWROOMなどの登場により、100円投げ銭して、ライトに応援しながら記憶に残そうという行動がでてきています。

アイドルもAKBグループのように多様なニーズに対応するアイドルが次々登場し、コモディティ化してきていることからも分かるように、象徴的なひとり応援するのではなく、多くのアイドルやクリエイターを応援し続けるような、固定化された消費ではない液状化された消費、流れゆくようにアイドル / クリエイターを応援していく人びとが今後ますます増えていくでしょう。

 

もうひとつご紹介するトライブプロファイルが、ファンとの関係性の関わり方の変化です。

これまではファンクラブやSNSなどを通じ、ファンの人たちとコミュニケーションをとる方法が主流でしたが、ソーシャルパトロンは「ファン同士の関係は瞬間的なつながりだけでいい」と発言していました。

たとえば、投げ銭をする人たちは、ランキング投票などのイベント時のみ一致団結して、その後の継続的な関係性を求めないといいます。これは分人主義と深く関係しているのではないかと考察してます

 

分人主義とは、“一人の人間は、複数の分人のネットワークであり、そこには「本当の自分」という中心はない。平野啓一郎(2012)『私とは何か「個人」から「分人」へ』(講談社現代新書)”という考え方です。

どんな人でも、仕事での自分、家族との自分と公私の顔を持っていましたが、SNSの発達によりさらに細分化され、Twitterの自分、Instagramの自分、Facebookの自分と分人化が進んだことにより、「これ以上継続的な関係を求めたくない」という考えが広がっていくのではないでしょうか

アイドル / クリエイターのコモディティ化だけでなく、分人化が進んだことが、リキッドコンサンプションの要因、つまり流動的に応援する対象を変化させる行動につながっていると考えられれます。

このように、ひとりの人やモノをずっと応援し続ける時代ではなくなってきているからこそ、ポップアップ的なコミュニティが大事になってくるという大きな示唆を得ることができました。

 

これらを踏まえた生活者変化行動仮説が、「同じ目的を達成することを求める集団において

継続的ではなく瞬間的な関係性を求める」というものです。

期間限定ショップのことをポップアップストアと呼びますが、SEEDATAではコミュニティにおける同様の現象をポップアップコミュニティと名づけました。

 

先ほどご紹介した、

①分人化している

②応援するものが増えている

➂アクセスが容易になった

という3つの背景を踏まえ、コアなファン以外は継続的な人とのつながりではなく、ポップアップストアのように一定期間だけコミュニティが形成され、終わったら別のポップアップコミュニティに移動するというのが、今後考えられる生活者行動変化です。

 

さらに、ここから考えられるビジネスチャンスは、アイドルやクリエイターだけでなく、ブランドにも応用できます。

D2CやDNVBにおけるビッグファンは、ポップアップ型ではなく、定住型のコミュニティといえます。ビッグファンは当然重要ですが、それだけでは収益が頭打ちになってしまうため、ビッグファンの周りには、流動的な一般層、つまりポップアップコミュニティの人たちを都度都度引き入れるブランド戦略が、事業やブランドの拡大には必要になります。

 

ポップアップコミュニティの人たちは、つねに応援してくれる存在ではなくとも、たとえば新商品が出た際には必ず戻ってきてくれる存在となり得ます。そんなポップアップコミュニティを指標としてブランド戦略を考えていくことが、リキッドコンサンプション時代のユーザー獲得においては重要だと考えます

トライブレポート本編の内容につきましては、information@seedata.jpまでお問い合わせください。

<参考文献>

久保田進彦(2020)「マーケティングジャーナル Vol. 39 No. 3 』<https://doi.org/10.7222/marketing.2020.007>(p.52-6, ).

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