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SEEDATA
公開日:2019.04.06/ 更新日:2021.06.09

グローバル(global)

海外進出マーケティングのコツ・現地の生活者インサイトを分析する

SEEDATAおよびSD/SAではトライブリサーチという手法を使い、日本のみならず海外の生活者に対する定性調査をおこない、海外進出企業のマーケティング調査をサポートしています。

これまで、アジアでのリクルーティングの方法、アジアでのインタビューのコツなどをお伝えしてきましたが、今回は生活者のインサイトを分析するうえでの考え方について解説いたします。

インサイト分析に活用するマイクロレポート

生活者の生の声から、彼ら彼女らの発言や行動の背後にある価値観を捉えるのがインサイト分析です。SEEDATAでは普段マイクロレポートという名前のフォーマットを活用してインサイト分析に取り組んでいます。これは我々独自のフォーマットで、インターン生からコアメンバーまでもが、生活者の価値観を分析するときに活用しています。

マイクロレポートは、ファクト・ファインディングス・インサイトの3つの要素から構成されています。

このマイクロレポートは、普段われわれが国内でのマーケティングの際にも活用しているものですが、当然海外進出の際にも有効です。

ファクト

生活者の発言内容のこと。生声を足がかりに分析を進めます。

ファインディングス

ファクトに対して主観的な解釈を加えた一次分析のこと。踏み込んだインサイトを導くために、いきなりインサイトを出さずに、まずは一次分析を行います。

インサイト

ファインディングスを踏まえて、対象とする生活者の行動や発言の背後にある価値観を仮説として言い抜いた文章です。

一般的には、事実を基に直接インサイトを考えるという分析プロセスが多いと思いますが、SEEDATAでは、ファインディングスを考えるフェーズを事実からインサイトを導く過程の中で、あえてフォーマットとして明示することで、分析能力の違いに左右されず、ある程度誰でも鋭い仮説を考案することができるようにしています。

インサイトをいきなり考えることができる場合は、わざわざファインディングスを考える必要はありません。ただし、我々は「100%正しくはないかもしれないが、仮に正しかった場合、既存のビジネスに大きな影響を与えるような大胆な仮説」を生み出すように心がけています。そういった意味で、インサイトを考える前に、まずファインディングスを考えてみることは、安心して大胆な仮説を出すためのジャンプ台を自分の中で設けているようなものです。この一段を使いこなすことができると、バイアスから外れた仮説を生み出しやすくなります。

海外進出を考える際はまずはこの分析法を取り入れてみましょう。

大胆な仮説を生み出すアブダクション

こうした仮説を形成するために、SEEDATAではアブダクションという考え方を用いています。

アブダクションは、帰納法、演繹法といった仮説を導き出すために用いられる推論のひとつです。アブダクションを日本語で表現すると、拡張的推論、発見的推論などといわれますが、ひとつの事象から飛躍的仮説を導き出す手法といわれています。

アブダクションには大きく2つの特徴があります。

・直接観察したものとは違う種類のなにかを推論する

・一般的にみると関連性のない事実を関連づけて主観から仮説を導きだす

例:

リンゴが木から落ちているのを見たニュートンは、地球には引力があるとことを発見した

このように、その事象からは直接は観察することのできないことを推論して仮説を立てる思考法です。SEEDATAでは2つの異なるファインディングスから共通のポイントを見出し、そこからひとつの大胆な仮説を作り出しています。

たとえば、以前調査したフューチャーショッパーというトライブには「行動する手間よりも考える手間を日常生活の中で省きたい」というインサイトがありました。インサイトはものごとに対する新たな仮説なので、必ず、参照点として「普通はこう思われているが」「一般的にはこうだと信じられているが」といった現状と比較し、さらに踏み込んだ、あるいは今まで視点がなかった領域に対する発見があります。

フューチャーショッパーの例で言えば、「手間を省くことに価値を感じる」というのは誰もが直感的に理解できる当たり前のことですが、このレポートでは今まで日常的に人びとが「手間」と感じていた概念を細分化し「行動する手間」と「考える手間」に整理して比較したことで、新しい発見がありました。

たとえば、家の近くにあって24時間営業しているコンビニは、夜には閉まる駅前のスーパーに行く手間、つまり行動する手間を省いてくれています。一方で、フューチャーショッパーに該当する生活者の中には、コンビニにすら行かずAmazonダッシュボタンで商品を購入している人が存在しています。彼らの発言のひとつに「Amazonダッシュボタンは商品選択の余地がないので迷う必要がない」というものがありました。

オンライン上でいつもの天然水を購入しようとすると、ほかの商品の情報が画面に出てきて、要りもしない値引き情報に惑わされたりすることをストレスだと感じていたのです。また、安いのであえてスーパーに行くという方もいましたが、スーパーでは自分がいつも通るルートを固定し、探しているもの以外の情報が視界に入らないようにしていると発言していました。

Amazonダッシュボタンとスーパーでの行動、一見かけ離れたこの2つの行動から、彼女たちが省きたい手間は、行動する手間はもちろんですが、それ以上に不必要な刺激を浴びて、無駄なことを考えてしまうという手間を省きたいというインサイトがあると分析しました。

これまで考えられていた「手間を省く」という概念を細かく細分化して定義したのがこのインサイトの新しさです。このようなインサイトの発見は、先進的な行動や考え方を持つトライブのリサーチと非常に相性が良いです。トライブは一般の人より特定の行動に対して哲学を持っていたり、高い欲求をもっているため、インタビューをした際、今までにないインサイトも抽出しやすいという特徴があるのです。ここまでがインサイトをどう分析するかという考え方の話です。

インサイトの評価ポイント

導出したインサイトを評価するポイントは、①新規性と②有効性です。

①新規性

通説・一般論に対して、導きだしたインサイトは何が新しいのか?を自問します。

たとえば、先程の例におけるインサイトが「買い物の手間を省きたい」では、昔からあらゆるシーンですでに言及されている概念であるために、新規性がありません。どんな手間なのか?という一歩踏み込んで考えた先に、「行動ではなく、むしろ思考の手間」という新規性のある発見がありました。

ただし、アジアの生活者リサーチを行う場合、参照すべき通説や一般論を、日本人である我々が知らないことが多くあります。その場合は、現地の人からすると当たり前の考察をせずに一歩踏み込んで考えるためにも、そもそも現地における手間ということに関する一般的な考え方・捉え方について理解を行った上で分析を行う必要があります。

②有効性

有効性は、当然リサーチの目的に準じて判断されますが、我々が普段行っているリサーチでは基本的に、

・既存のプロダクトのアジア市場攻略において意思決定の基準に影響を与えるか?

・現地の市場に向けたゼロからの商品開発において新たな視点などをもたらすか?

といった観点で評価します。その仮説があると、具体的にどんなアクションを起こすことができるか?というレベル感で判断するとよいでしょう。

たとえば「行動する手間より考える手間を省くことに価値を感じる」というインサイトの有効性は、新しい店舗やEC事業を構想している企業が、顧客に提供すべき購買体験を考える際に、単純なクリックやページ変遷数などの行動の少なさにこだわるのではなく、無駄な思考を促さない情報量の少なさに着目すべきであるという示唆を与えることができます。

SEEDATA流トライブ調査の概要

トライブをリサーチする際には、なるべく多様な視点を持つ4〜5人ほどのメンバーで、それぞれの主観を積極的に交えてマイクロレポートを作成します。全員で30~40くらいのマイクロレポート、つまり大胆な仮説集を作成します。その中から、もっとも新規性と有用性が高く、納得感のコアとなる5~7ほどのインサイトを選定します。

フューチャーショッパーの調査の際は、未来の購買体験のヒントを探ることが大きな目的で、サブスクリプションやAmazonダッシュボタンを活用するトライブから、行動する手間ではなく考える手間を省きたいというインサイトを導出することができました。例えば、今後新たにサブスクリプションサービスを設計する場合、考える手間も意識することがポイントといえるでしょう。

海外進出、とくにアジア進出を考える場合、キャッシュレス化が日本よりはるかに普及していることを踏まえてマーケティングを考える必要があります。特に中国では日本と比較しても、かなり先進的な購買体験をしている人が存在するため、日本のフューチャーショッパーとは異なった観点の購買体験のヒントの導出に役立つはずです。例えば、中国では、事前にカフェのメニューをアプリで注文、決済して店舗で受け取るだけという買い方は、都市部ではすでに当たり前です。

一方で、アジアではまだ「行動する手間」を省くことに価値を感じている人が多いという現状もあります。行動する手間を省いてくれるコンビニが、まだ少なかったり、そもそも道路の混雑状況がひどいので、小さな買い物でも、その手間が尋常ではありません。このような視点でみると、「グラブ」という東南アジアのデリバリーサービスの躍進にも納得が行きます。アプリで依頼すると、料理からマッサージ、ネイリストまで、これまで自分で出向かなければならなかったサービスを自宅で受けることができるのです。

世界各地で平等にテクノロジーが進化していっても、その活用方法は、各地の生活のコンテクストによって多様です。グローバリゼーションが進んでいっても、気候と文化が大きく違う場所では、モノゴトの意味も違います。こうした違いを発見し、ビジネスに活用するために、現地の旬な生活者であるトライブを対象に、彼らの行動や発言の背景を分析するのです。

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SEEDATAでは、独自に定義した先進的な消費者群(=トライブ)のリサーチを通じて、企業のイノベーション支援を行っています。また、海外進出を考える企業のサポートもおこなっています。

当記事に関するご質問、企業様からのアジアの共同リサーチの相談はinformation@seedata.jpまで、件名に『アジア共同リサーチについて』、御社名、ご担当者名をご記名いただき、お気軽にお問合せください。

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