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SEEDATA
公開日:2018.11.26/ 更新日:2021.06.09

グローバル(global)

【海外進出のポイント10】アジア最新トレンド通信vol.2台湾編

現在、世界的に活字離れが叫ばれていますが、もともと台湾では本屋をプラットフォームにイノベーションやカルチャーが作られていくという文化があります。

今回ご紹介するのは、台湾のこの本屋文化から生まれた「ブック・ギャザラー(Book Gatherer)」というトライブです。

前段として、台湾には誠品書店という日本の代官山蔦屋書店のモデルになったともいわれている本を基点としたショッピングモールが存在します。創業は1989年と歴史は古く、本が3割、その他の雑貨が7割の店内は、さまざまな交流会や読書会が開かれたり、料理本にあわせて実際の料理の実演が行われるなど、多くの若者が集うリアルでのプラットフォームとなり、ここから新たなカルチャーが誕生しています。

台湾では、ここに集まる人びとのことを「文芸青年」と呼んでいます。文学、クリエティブカルチャー、芸術を好む若者たちを指し、東京でいうと下北沢、高円寺などに多く存在するサブカルチャーを好む若者たちといえば分かりやすいかもしれません。

一つだけ日本と違う点があるとすれば、読書会やセミナーに自ら進んで参加し、「受け身」であった学びから、「参加型」というアクティブな学びへと求めている点でしょうか。

一般的に日本よりも台湾のほうがカルチャーは進んでおり、誠品書店のような店舗は日本ではまだ新しいものですが、台湾ではもはや当たり前となっています。

このような背景を踏まえたうえで、今回ご紹介したいのは台湾の独立系書店です。

独立系書店とは、文芸青年の会社員が退職し開いた個人の書店であり、近年台湾ではこの独立系書店の増加が目立ちます。この書店はいわゆる町の書店とは異なり、本を起点にいろんな人とつながることを目的にサロンとしてひらかれていることが特徴です。

書店でありながらサンドイッチとコーヒーなどの軽食も提供し、コーヒーではなくお茶を提供しているお店もあるのは台湾ならではといえるでしょう。

独立系書店の人気の背景として、その書店のオーナーや店員が厳選した本が置かれていることがあげられます。自分が好きなテーマの本が集まった書店に行くことで、同じ趣味嗜好の人たちとつながることができ、それが台湾の独立書店の新たな価値となっているのではないでしょうか。

独立書店の一部をご紹介すると、田園城市生活風格書店は、オーナーの「他の本屋にはない本を置きたい」という想いから、年に6回日本へ出向き、厳選した古本を仕入れたり、自社でも書籍を一から作り上げたりという熱の入れようです。

また、同じ独立書店である閱樂書店では、毎週書店内でアコースティックライブや展示などの催し物を開催し、店主は『本屋でなく、さまざまなジャンルの文化や人が交わる場所』としての矜持を持っているなど、書店ごとにさまざまな特色がみられます。

現在、日本の本市場は1兆円といわれていますが、年々減少の一途を辿り、20年で元々あった2万店舗のうち、約半数の1万店舗にまで減少しているともいわれています。これは世界的に見ても同様で、電子書籍の登場で今後もこれは止められない流れといわれています。

ところが台湾では、独立系の書店が増加していることにより、この流れを食い止めている現実があることをご存知でしょうか。日本と同じく読書離れが進み、出版不況にある台湾ですが、そんな逆境にめげることなく、台湾では独立書店が新しい文化の一つとして根付きつつあります。我々はここに、日本の次世代の書籍販売のための新たなヒントがあると考えます。

台湾の誠品書店や独立系書店のようなスタイルを取り入れることで、日本でも若者が足を運びたくなるような書店の空間作りに活かすことができるのではないでしょうか。

実際、現在日本にも1ヵ月に1種類の本だけを売るという森岡書店という書店が存在します。1冊の本を起点に店全体の本の雰囲気を決め、まるで展覧会が開催されているような店づくりが密かな人気を集めているのです。

今や品揃えのよい大型書店やネット通販などのおかげで、私たちが手に入らない本はありません。しかし、それは同時に情報過多で、「何を手にしたらいいのか分からない」という状態を生んでしまっているともいえます。それをあえて1ジャンル、1冊の本にフォーカスすることで、書店オーナーのセンスに任せ、自分で本を選ぶ必要がないのです。

実は、最近の日本の若者たちの中には「自分で本を読まずに内容だけを知りたい」というインサイトがあります。本は自分で読む時代ではなく、書いた人や選んだ人に内容を伝えてもらうという流れが今後はもっと大きくなっていくのではないでしょうか。

その時に、新たなコミュニケーションの場としての役割を担っていくのが、今後の書店に求められる新しい意味ではないかと考えます。

SD/SAでは台湾で独立系書店を開いた文芸青年をトライブとして捉え、日本とは異なる本に対する価値観、行動を調査することで、今後の日本の書店づくりの示唆となるトライブレポートを作成していく予定です。

【SEEDATA ASIAにてリサーチをすることができるアジアの国や都市一覧】

東アジア地域:中国(北京、上海、杭州、深圳などの主な都市部)、台湾、香港、韓国

東南アジア地域:タイ(バンコク・チェンマイ)、インドネシア(ジャカルタ)、ミャンマー、カンボジア、ベトナム、シンガポール、マレーシア、フィリピンなど

【この記事の監修者】

王銘浩。SEEDATAアナリスト。

SEEDATAアナリスト業務からSD/SAでのアジア研究業務、SD/Vでのインキュベート業務など、幅広く携わる。

鉄道会社の新規事業開発支援、出版メディア会社の新規事業開発支援、大手インフラ会社の新規事業開発支援、大手エレクトロニクス会社の製品販売戦略構築支援などを経験。

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SEEDATAでは、独自に定義した先進的な消費者群(=トライブ)のリサーチを通じて、企業のイノベーション支援を行っています。

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