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SEEDATA
公開日:2019.11.26/ 更新日:2021.06.11

DNVB

【DNVBの事例22】サービス業がDNVBに取り組む場合のポイント

これまでSEEDATAのDNVB(Digitally Native Vertical Brand)、ならびにD2Cに関する記事をお読みいただいている方はすでに理解されていると思いますが、DNVB、D2Cは基本的にはアパレルのSPAから端を発しています。

今更聞けないD2C③D2CとSPAの違い

つまり、製造直販をするあたり、どうしても製造業が多くなりますが、サービス業の場合でもDNVBをおこなうことは可能です。まず、ここでいうサービス業とは、基本的に、サービスに対し月額〇円と課金できるレベルまで達成できているものを指し、無料サービスの場合は今回お話するサービス業には該当しません。

Pelotonの成功事例

サービス業に軸足を置きながらDNVB的な考え方を実現しているもっとも分かりやすい参考事例がアメリカで家庭用エアロバイクを販売しているPeloton(ペロトン)です。

Pelotonは、ジムに通う人なら誰しも感じたことのある、

・マシンが混んでいる

・自分のペースでトレーニングできない

・周囲の人と交流したいができない(もしくはしたくないのに交流しなくてはいけない)

といった、さまざまな義憤からスタートし、ホームジムにも関わらず、「商業ジムに通うより素晴らしいジム体験を作りたい」という哲学から成り立っています。

 

Pelotonの特徴はエアロバイクというモノ(ハード)に、インストラクターが目の前で教えてくれるかのようなストリーミング配信動画(サービス)がついている点ですが、人気の秘密はそれだけではありません。オンライン上でほかのユーザーとつながり競い合うことを可能にすることで、ユーザーがひとりで自宅にいながらも、まるで他の人たちと一緒に走っているような感覚で運動することを実現したのです。

これにより、エアロバイク本体の価格は20万以上、サービス利用料は月額約4000円という高額ながらも、Pelotonは熱狂的支持を受けています。

 

ここでひとつ重要な点は、「ハードウエアにサービスをつけている」のではなく、「サービスが主でそこにハードウエアをつける」考え方です。

つまり、「そのサービスを体験をもっと豊かなものにするために、たったひとつだけハードウエアをつけるとしたら何か」と考えた結果が、エアロバイクだったということです。これがもしもウエイトマシンだったとしたら、ここまでヒットすることは難しかったかもしれません。

 

すべてのエクササイズメニューにおいてジムよりも良い体験を届けることは不可能ですので、「たったひとつだけ重要なものを選ぶとしたらなにか」を考えます。エアロバイクであれば最高の体験が作れるのではないかという仮説を持ち、ハードウエアを付加することが、サービスをDNVB視点で強化するための重要なポイントといえるでしょう。

 

ハードウエアを付加することのメリットは、サービスだけでは達成できなかったことが実現できるという点です。たとえば、まるでソフトウエアのようにハードウエアをアップデートすることが可能になります。また、オンラインでエクササイズ動画を配信するサービスに、ユーザーが全員同じハードウエアを使うことをプラスすることで、その人の力に応じて漕ぐ力を変える、ほかのユーザーと距離を比較することなども可能になります。

ハードウエアを持つことで、サービスだけを提供する場合に比べ、はるかにリッチな体験を提供することができるのです。

 

以上をまとめると、サービスをDNVB化するためのポイントは

①まず課金できるレベルのサービスを定額で作る

②その体験をもっともよくするためにひとつだけハードウエアをつけるとしたら何かを考える

という二つの観点を持つことです。

Teslaの成功事例

実はPeloton以前からこの考え方を応用して大成功をおさめているのが自動車メーカーのTesla(テスラ)です。

Teslaはハードウエア(=車)の会社というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、IOTデバイスの会社と言ってよいでしょう。Teslaの持つコミュニティや自動運転技術は、まるでiPhoneのようにナビゲーションや制御システムなどをアップデートしていくことで洗練されていきます。

Pelotonはサービスの側面が強いため、どちらかといえばサービス開発をしている企業の参考になりやすい事例でした。

Teslaも「車というハードにソフトウエアサービスがついてくる」ではなく、「常にオンラインに接続し、常にアップデートされ続け、よりよい体験ができるサービスにたまたまハードウエアがついている」という考え方で整理したほうがしっくりきます。

 

このように、これまでの自動車メーカーとはまったく異なるモノの考え方で取り組むことで、audi、BMW、Mercedesといったジャーマンスリーの保有者のTeslaへのスイッチが増加しています。

ハードを主でサービスを考えると、例えば「ディーラーが無料で修理してくれ

る」という、サービス=ハードウエアのメンテナンスという考え方に終始しがちです。ソフトウエアサービスの会社のように自動車メーカーを経営していることがTeslaの強みといえるでしょう。

 

当然、車自体の性能やデザインだけで見ればTesla以外にも素晴らしい車は数多くあり、むしろTeslaはハードウエア自体はModelX、Model3、ModelSといった具合にほんの数種類しかありません。

それでもTeslaが熱狂的に支持されているのは、人びとは車そのものではなく、「そこに繋がっているソフトウエアサービス全体が欲しい」と考えているからです。

 

今後はPelotonやTeslaのように、自転車やバイク、眼鏡など、ソフトウエアサービスが主となるハードウエアが登場するでしょう。

iPhoneが革命的だったのは、本体は皆同じただの箱であるにも関わらず、持つ人によって中身はまったく異なる仕様にできたという点です。そういう思考回路を車にも持ち込んでいることがTeslaの体験を洗練されたものに引き上げています。

 

このほかにも、最近のサービスのDNVB化の事例として、ローマ法王庁がアプリと連動する電子ロザリオを作った事例もあります。信仰=サービスと考え、信仰体験をもっとも高めるIOTデバイスをひとつだけ作ると考えた結果がロザリオだったのです。

このように、サービス業は「ワンモア・ハードウエア」という考え方で明らかな差別化をはかることが可能です。ハードウエアによりユーザーにフィジカルな体験をもたらすことができ、それを製造直販することができれば、それはもうDNVBと呼べるでしょう。

どのようなハードウエアを作ればよいかは、サービス体験から考える必要があります。

繰り返しになりますが、「サービスをよりよいものにするために、ひとつだけどんなプロダクトが必要なのか」という問いに答える必要があります。

最後に、ハードを作る際に商品数で競うのはハードウエア会社のすることなので、「商品数は少なくする」ということも重要なポイントです。あくまでメインはサービスであり、Teslaのように厳選されたハードがひとつ、もしくは数種類あればよいのです。