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SEEDATA
公開日:2019.11.20/ 更新日:2021.06.11

DNVB

【DNVBの事例⑯】ワコールが買収したDNVBインナーウエアブランド・LIVELY

当ブログではこれまでも様々なDNVB(Digitally Native Vertical Brandの事例をご紹介してきましたが、今回は日本メーカーが海外のDNVBを買収した事例についてご紹介します。

日本メーカーの海外DNVB買収事例

まず、以下のプレスリリースを御覧ください。

このプレスリリースを御覧になっていただければ分かりますが、大手女性用下着メーカーのワコールが、 Intimates Online, Inc.(以下 IO社)のDNVB『LIVELY(ライブリー)』を買収したということを発表しています。

このリリースには「DNVBとD2Cの違い」について以下のように語られています。

D2Cのプラットフォームとの本質的な違いは、顧客と一緒になってブランディング、つまり、ブランドの共創を行う点。ブランドの理念や体験した価値への共感を、SNSなどのデジタルメディア上で展開・共有しながら、消費者の行動を連鎖的に喚起する。

とくに注目すべき点は、単にオンライン上で売る、メーカーが製造から販売まで一気通貫して行うというD2Cという意味ではなく、「デジタル上でブランドの哲学を伝え、ユーザーとともにブランドを作っている」DNVBであると把握したうえで、D2CではなくDNVB買収を行なっている点が、日本においては革新的な事例といえるのではないでしょうか。

では、このLIVELYがどのようなブランドなのかを見ていきましょう。
LIVELYはD2C型で安価かつ利益率が高いインナーウエアを提供しているブランドというだけでなく、「No Makeup Needed」という哲学を持っています。
これは私の解釈になりますが「Makeup=盛る」と日本語で捉えると、これまでのような締め付けによって「盛ることを良しとするバストメイクをやめよう」というメッセージが込められているように感じられます。

さらにLIVELYが配信するPodcastでは「No Makeup Needed」という哲学を伝えるために、女性起業家として活躍している人たちが、女性の人生におけるキャリア形成の難しさ、大胆に生きることの重要性などについて語っており、女性を応援したり、モチベートしたりすることを目的としています。
この哲学には日本でいうところの「裸の付き合い = すべてさらけ出す」という意味も含まれているようで、女性起業家たちが、自分を着飾ったり背伸びすることなく、苦労したことや弱さも含めて開示していることが特徴的です。その一方で、「Risk taking=リスクをとる」といった発言もよく聞くことができます。
Podcastではヨガスタジオを経営している女性やファッションブランドをゼロから作った女性起業家たちが登場し、起業するまでに打ち勝ったさまざまな恐怖に関するエピソードを紹介しています。その結果、リスナーは「自分も、もっとなにかできるのではないか」と鼓舞されたり、一歩を踏み出す勇気が与えられているといえるでしょう。

ほかにもLIVELYのLPやPodcastの中には「wild」という言葉が散見されます。「wild hearts=野性的な心」、つまり大胆に生きよう、もっと強く生きようというメッセージが込められているのではないかと、解釈することができます。
下着のワイヤーによる締め付けと、女性の社会的な締め付けが重ね合わせられていて、ノンワイヤーの下着をつけることは、自らを解放し、周りに縛られずに自分の人生を生きようという想いの現れになっています。

とくにアメリカでは社会vs個人という構図があり、生まれた環境によって自分の限界が決められてしまい、自分で未来を選べないというのはおかしいのではないかという義憤を持っている人が多くいます(その義憤から生まれた言葉こそがアメリカンドリームという言葉です)。社会の縛りから解放され、もっと自分らしい人生を生きようという思想が、多くの女性に受け入れられているのではないでしょうか。
これまでのインナーウエアは、セクシーやゴージャスを売りにしたものが一般的でしたが、LIVELYは「No Makeup Needed」という哲学のもと、スポーツブラのように付け心地の良いインナーウエアを提供しています。その哲学と商品に、強く生きる女性を投影し、自分の限界を決めないでワイルドに生きようというメッセージを伝えています。そのメッセージをさらに女性起業家のエピソードともに伝えているPodcastを聞き、共感したユーザーがインナーウエアも購入しているのです。
LIVELYにとって、Podcastは哲学を伝えるチャネルでもあり、販促チャネルとしての役割も果たしていることがポイントです。

これまでのインナーウエアといえば、胸をどれだけ美しく見せれるか(盛れるか)という機能と、デザイン性で選ばれてきましたが、プロダクトではなく哲学に共感して購入するというDNVBの流れがインナーウエアの分野にも訪れているといえるでしょう。

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