日本国内外の先端事例や生活者トレンドをSEEDATA独自の視点で分析し、ブログ形式で配信しています。News

Written by
SEEDATA
公開日:2019.09.17/ 更新日:2021.07.12

コミュニティ(community)

コワーキングスペースの成否を分けるビジョンと機能の作り方

前回はコワーキングスペースの成り立ちと海外のコワーキングスペースの成功事例についてご紹介しましたが、今回はこのコワーキングスペースの成功に欠かせない「ビジョン」についてお伝えします。

コワーキングスペースの成功事例を考えるとき、ひとつは単純に売り上げや利用率の多さで考えることももちろん重要ですが、たとえばSpaciousのような快適な設備で快適に働ける場所というワークプレイスが今後急増して行くことを考えると、今後はコワーキングスペース単体で成功するのは確実に難しくなっていくでしょう。

その理由として、そもそも電源やWi-Fiが設置されているスペースが街中に増え、カフェなどがワークスペースにどんどんアダプトしているという状況があります。さらに、Spaciousのように高級レストランの空き時間をコワーキングスペースに変えようというサービスも登場し始めているため、単純に設備機能で戦っても、ワークスペースではなかったスターバックスや蔦屋書店のような場所にどんどん淘汰されていくことは明らかです。

ではコワーキングスペースとして成立させるにはどうすべきかというと、ワークスペースとしての機能や設備の充実は大前提として、さらに別の付加価値を持たせる必要があります。

このときによく語られているのが「コミュニティ」です。

通常、コワーキングスペースに入る場合、そこに集まることでの自分へのメリットを重視します。もっと分かりやすくいうと、コワーキングスペースに入ることでの人的なつながりや、コネクション(投資家に会える)など、打算的な目的で集まる場合が一般的ですが、それではコミュニティの強度は強くなっていきません。

成功しているコワーキングスペースにみる現代的コミュニティ論として、まずはコワーキングスペース全体で目指す大きなビジョンを掲げ、そこに共感、賛同する人が集まるコワーキングスペースのほうが、人と人とのつながりの強度は強いといえるでしょう。何故なら、お互いに損得感情ではなく、大きな向いている方向性や、今の言葉でいうとバイブスが合う人たちが集まっているからです。

バイブスが合う人たちが集まれるように、ひとつ旗を掲げることがコワーキングスペースには求められていますが、分かりやすい例が前回お伝えしたNYの女性向けコワーキングスペースのWingsです。

ここには「アメリカのビジネス界において、立場が強くない女性が一致団結し、女性の地位向上を目指す」というフェミニズム的な流れにのったビジョンに賛同した女性の起業家や、同じような悩みや課題を持つ女性が、お互い助け合うために集まってきています。「投資してもらえるから協力しよう」ではなく、「そもそもの大きなビジョンに向かって協力し合う」という価値観が根底にあるのが特徴です。

コワーキングスペースに集まる人は基本的にフリーランスや副業で仕事をおこなう人たちです。そのため、コワーキングスペース自体が大きな傘となりビジョンを掲げることで、彼ら・彼女らにひとつの大きなビジョンを共有させることが、これからのコワーキングスペースのミッションといえるでしょう。

ビジョンを掲げることの重要性を示す事例として、アメリカと日本でのWeWorkの受け入れられ方の違いを例にあげましょう。

WeWorkはアメリカでは成功している一方、日本では「入ったはいいが、思っていたほど交流ができない」という話をよく耳にします。これは単純に「アメリカではうまくいったが日本では文化が合わなかった」という話ではなく、日本では傘となるミッションを与えられていないという現状があるためです。

そもそもアメリカのサンフランシスコやシリコンバレーは、土地自体の風土として「新しいビジネスでイノベーションを起こす」という大義が根付いているため、コワーキングスペースがミッションを与えるまでもなく、団結力があり、集まった人々同士が自然につながっていくことができました。

一方、日本にはシリコンバレーのような価値観や風土自体が根付いていないため、そのようなミッション、ビジョンをコワーキングスペース側が提供しなければうまくいきません。結果、大企業やフリーランスが入っても、お互いの交流が生まれず、たとえプログラムがあってもうまくはまらないという事態に陥っていったのです。

これは、全員が大きなビジョンに向かうというコミュニティになっていないことが原因なのです。

ビジョンを掲げたコワーキングスペースの国内の成功事例としては、前回お話したGRIDがあげられます。

GRIDは「シェアリングエコノミー」というビジョンを掲げて、シェアリングエコノミーに関するビジネスをどんどん推進していくことを前提に、たとえば、コインランドリーを置いて誰でも自由に使えるようにしたり、家を持たなくてもそこで暮らせるようにしたりするなど、ビル自体がシェアリングエコノミーを実践しています。

これにより、自然とシェアリングエコノミーやサステナビリティ関係の事業をおこなう企業や、これに共感する企業が集まってきています。お互い「シェアリングエコノミー」という同じ方向を向いているため、協力関係が生まれやすいことも特徴です。

フリーランスの場合、同じビジョンを持っているという前提があるほうが個人や企業ともつながりやすく成功しやすい、これは前述の「同じバイブスを持っている」と言い換えることもできるでしょう。

バイブスに関して補足すると、最近では龍崎翔子氏が経営するL&Gでは「バイブス採用」をおこなっています。これは従来の採用のようにスキルや能力を絶対視するのではなく、「自分たちの事業とバイブスが合うかどうか」を重視し、採用の基軸にしています。ここでいうバイブスとは、単純にテンションが上がる下がるではなく、同じような部分でテンションが上がり、同じような部分でテンションが下がることを意味しています。

最近、とくにミレニアル世代を中心に、一緒に仕事をするうえで同じ価値観を持っているということは、かなり重要視されています。SEEDATAでも「カルチャーフィット」を重視していますし、Netflix、Googleなども同様の動きがあります。

コワーキングスペースも同様で、たとえ能力がある人がたくさん集まったとしても、向いている方向が違えばコワーキングスペースとしては成功しないのです。

コワーキングスペースが成功するために大事なことは「機能・設備ではなくビジョン」だと思いますが、現在の日本は、まだまだ設備、機能のみに力を入れているコワーキングスペースが一般的です。3Dプリンターやチャットボットなどを置き、工房としての機能を充実させたファブラボ的なコワーキングスペースも登場し始めていますが、あまり成功していないのが現状です。

単純に「3Dプリンターを誰でも使える」という形にするだけでは、設備を使いに来るだけの場所になり、横のつながりはあまり生まれません。

たとえば「今後、企業ではなく生活者にモノづくりの権利が移行していき、プロシューマーのような人達が増えていくため、民間レベルでモノづくりの精神を広めましょう」というビジョンを掲げ、それに即したプログラムをおこなえば、そのビジョンに共感する人が多く集まります。お互い同じ価値観に共感していれば、横のコミュニケーションをとる心理的ハードルも一気に下がります。

もちろん、単にビジョンを掲げるだけでも人は集まらないため、ビジョンに合わせて、それに沿ったコワーキングスペースの設計をしていくことが重要です。

GRIDの事例のように、ビジョンに合わせて適切な機能を持ってくることは、ある種、商品開発と同様に考えることができます。ファンクショナルなバリュー(機能価値)に対してエモーショナルなバリュー(情緒価値)があり、それがどういうビジョンを持ち、ソーシャルバリューを与えるかという階層構造になっています。SEEDATAでは、今後のコワーキングスペースの設計は、このような階層構造で考えることが重要だと考えます。

たとえば、Wingのような女性専用のコワーキングスペースのビジョンを掲げるのであれば「女性がよりエンパワーメントされる働き方」のためにどのような設備機能が必要なのか、ということをきちんと考えなければいけません。

現在のような単純に設備機能が整っているだけのコワーキングスペースは、これまでであればそれなりのニーズがありましたが、前述したように、そもそもの設備を持っている(=設備投資がいらない)カフェ、カラオケ、レストランやシェアカーなど代替されるものが多く登場した時、勝つことはできません。

今後、AIエンジニア向け、ブロックチェーン技術を活用したスタートアップ向けのコワーキングスペースなども登場してくるでしょうが、それでは単純に今の世の中のニーズを汲み取っただけです。

「そこに集まり、どういう方向を向き、何を作っていくのか、世の中にどんなインパクトを残していくのか」という部分まできちんと設計されていなければいけません。

最後に、コワーキングスペースを作る際に重要なビジョンの作り方ですが、ビジョンをどのように作ればいいかが分からない場合は、SEEDATAの持つトライブレポートを読むことで適切に作ることができるため、お気軽にご相談ください。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です