SEEDERは今後増えていくであろう考え方や行動を示している先進的な消費者グループ=「トライブ」を独自のリサーチによって発見、定義し、調査した結果をレポートにまとめています。トライブ・リサーチから得られた知見を通じて、推進される企業のイノベーション活動を「トライブ・ドリブン・イノベーション」または「トライブ・マーケティング」と総称し、コンサルティング支援を行っています。トライブレポートの詳細と読み方については、こちらの記事をご一読いただければ幸いです。
当リサーチでは、ライフステージが進んだミレニアム世代の価値観から、今後の働き方・キャリア観・コミュニティ運営・住まいについて洞察をしています。
かつて日本の子育ては、母親が家で専門的に行い、父親が外で稼ぐという分業体勢の上で行われてきました。しかし、近年共働き世帯の増加や女性の社会進出に伴い、こういった子育の常識は過渡期を迎えています。
男性の育児休暇の取得率は増え、フリーランスとして働きながら子育てを行う若い親は増加傾向にあります。また、周りの人を積極的に巻き込んだコミュニティでの育児も実践されており、旧来の子育ての価値観は大きく変化し始めています。
これは、ミレニアム世代に代表される人々の、常識に捉われない新たな子育の実態であり、これからの親、そして夫婦の姿といえるのではないでしょうか。もはや性別による家事育児と仕事という境目は曖昧になっており、ハイブリッドであることが求められています。
また、彼ら自身は父親、母親という性別による役割分担をよしとはせず、それぞれが同等の家事育児スキルを持つ中で、それぞれのスケジュールを補う形でともに家事育児をする、「二人の親として見てほしい」というインサイトを持つことも分かりました。
本レポートでは、ミレニアム世代の夫婦の子育ての実態を調査しながら、これからの夫婦の姿を洞察していきます。
ミレニアル世代の子育て価値観の変化
SEEDERではこれまでもミレニアル世代のインサイトに関するさまざまな調査をおこなってきましたが、ミレニアル世代は、度重なる災害や経済危機を体験した世代であり、国や企業に対する絶対的な信頼があった親世代とは異なるライフスタイルを追求することが特徴的な世代といえます。
幼少期から思春期にこれらの体験を何度もした結果、絶対的な安定などないことを前提に「自分の力で生きていくべき」と考えるようになっています。そのため、住居、働き方、生き方に関しても多様な価値観を持っていますが、ミレニアル世代を理解する上で重要なインサイトのひとつが「自分が心地よいと思うことを追求する」というものです。
たとえば、KEMIO氏の「脳の容量が足りないから、嫌なことはスワイプしてどんどん消して、ウチはウチのために生きていく」(出典:ダ・ヴィンチニュース 嫌なことはスワイプして消す。夢をかなえ続けるkemioの「棺桶までランウェイ」な生き方 https://ddnavi.com/review/532297/a/)といった発言や、りゅうちぇる氏の「パパとママではなくて、「僕とぺこりん」。個人と個人で考えたとき、僕らに性別による分担って似合わない」(出典:日経DUAL パパのカタチ”はパパの数だけあっていい!
https://dual.nikkei.com/atcl/column/17/082200115/022100007/)といった発言に象徴され るように、ミレニアルズ世代からは、これまでの風習に従うのではなく、自分のいいと思うこと、正しいと感じる行動をし、周りと比べずに自己表現をしている同世代の著名人が支持されています。
また、ミレニアル世代は親世代では常識とされていた”子育ての常識”を引き継いでいないことも大きな特徴のひとつです。
彼らは親世代が経験した経済的豊かさなどの成功体験は自分たちには当てはまらないと考え、たとえば、
・自然分娩で子供を産むことが大事
・母親が専門的に子育てを行うべき
・母乳で子育てをすることが大切
・大企業に努めて終身雇用の元で安定的に子育てをするべき
・子供の受験に有利な裕福なパートナーと結婚をするべき
といった、高度経済成長期以降に善しとされ引き継がれてきたあらゆる価値観がありましたが、「結婚したのは緊急連絡先をつくるため」(出典:朝日新聞DIGITAL 結婚したのは、緊急連絡先をつくるため 石井リナ×佐々木ののかhttps://www.asahi.com/and_M/20180329/150901/)と発言するなど、これらの価値観を鵜呑みにせず、新たなパートナーシップを築こうとしています。
ハイブリッド・ペアレンツのセグメント
今回はミレニアル世代の価値観に代表されるような、過去の常識に囚われない子育ての象徴として、以下の3つのセグメントを調査しまた。
#01 :エンライテッド・ペアレンツ
育休がきっかけとなって転職などを行っており、自分のキャリアや人生観にとって育児が重要な意味合いを見出している人たち。
キャリアの中で育児休暇を取得しており、そのことがきっかけとなって自身のライフワークバランスや人生観を見直し、子育てをする前は想定していなかった・踏み出すことができなかったような生き方を実践している。また、体を酷使するような働き方をやめ、家族との時間と自分の感性を大事にするような生き方にシフトすることで、人生をより有意義にすることができると考えている。
#02 : チームビルド・ペアレンツ
自分にできない育児を自覚しているため、育児を夫婦の力だけで行わずに積極的に周りを巻き込んで行っている人たち。
子育てを自分一人で行おうと考えておらず、地域コミュニティやシェアハウスの住人など、家族以外の人に積極的にみてもらいながら、自分はトレーナーのような距離感で子供と関わっている。また、SNSで子育ての様子を配信するなど、人の注目を集めるためのコンテンツとして子育てを捉えている。子供が自分以外の人と関わることによって、むしろ多くのメリットを与えることができると考えている。
#03 :キュリアス・ペアレンツ
現職を止めることなく育児をおこなっており、子育てを自分の人生のイベントのひとつとして他と並列に位置づけている人たち。
会社の代表やフリーランスで働くなど、仕事における個人の裁量が多く、ロールモデルがないような働き方・生き方を実践している人たち。子育ての優先度が必ずしも高くなく、あくまでも自分の人生のイチ経験として早期に取り組むことに価値を感じている。
家事代行サービスやパートナーに育児や家事を頼むことを厭わず、自分のための時間を捻出するためにまわりの環境や仕組みを変えていきたいと考えている。
エンライテッド・ペアレンツのひとりは、激務の戦略コンサルタントでしたが、子供ができたことをきっかけに育休をとり、アーティストに転身しました。アーティスト活動をするかたわら、育児にもしっかりコミットし、「子育てが家事育児のパワーバランスや、自分の人生を見直すきっかけをくれた」と発言しています。
育休をとったことで、仕事に対しても「これは自分の人生にとって有益かどうか」を考えるようになり、有益でないこと、おかしいと思うことにははっきりと「No」といえるようになったといいます。
また、チーム・ビルドペアレンツでは、「自分は子育ては向いていない」と感じながらも、それを悲観的ではなく前向きに捉え、得意な人に依頼して代わりに自分のスキルを提供するなど、コミュニティを積極的に巻き込んで、行動にうつしているということが分かりました。子育てがうまくいく仕組みを作ったり、育児から離れる時間を作っていることが象徴的です。
また、妻が月に1回ホテルに泊まることで育児から離れる「エスケープタイム」という時間を設け、そこで自分の仕事や自分自身を見つめ直しているという話も聞くことができました。
これを実践するためには、前提として、母親が離れている間に父親がひとりでも育児をできるよう、お互いの育児スキルを揃える必要があります。これは当たり前のようで、まだ実践できていない家庭が多いのが現状です。
調査対象のミレニアル世代が、経営者やベンチャーという働き方をしているというのも要因のひとつかもしれませんが、最初にゴールを決め、ビジョンを共有し、スキルを身に着けて補い合う、ある種会社の経営に近い考え方を子育てにも採用している方々が多かったことも印象的でした。
ベンチャーの社長であるキュリアス・ペアレンツの男性は、人生をスタンプラリーになぞらえ、子育てもスタンプのひとつと考え「出産というハードルを若くて体力があるうちに乗り越えておく」と考えていました。学生時代に出会った妻は計画的早期出産で18歳で出産し、フリーランスで仕事をしながら肩の力を抜いた育児を実践しています。
以上のような特徴をもつハイブリッドペアレンツたちを調査し、レポート本文ではそれぞれを深く分析しています。
SEEDERでは以前から、このような流れはゆくゆくスタンダードになっていくだろうと予想していましたが、コロナの影響により一気に加速している現状がありました。
これまでは、新卒で入社して、昇進して…と積み上げ型のキャリアが一般的でしたが、出産・育児というイベントによって、キャリアは一直線ではなく、さまざまな方向に行くことができると気がつき、さらに、転職してよりよいキャリアに近づくのではなく、「自分の天職を見つけること」が重要だと感じ始めているのです。
生活者変化行動仮説:築いてきた関係を忘れるための時間を意識的に確保するようになる
これまで、仕事や家事育児の忙しさの中で、人間関係も凝り固まり、自分が本来どんなことをしたかったのかを見失いがちでした。これを解決するために、トライブたちは、父親、母親である前に1人の人間であり、叶えたい願望を持っていたことを思い出すために、何にも属さない自分を意識的に作っているという特徴があります。
前述した「エスケープタイム」は、妻が育児や家事にまつわることが目に入らない場所に移動し、自分のためだけの時間を取り戻すことを目的としています。これはレジャーや飲み会などの憂さ晴らしや現実逃避とは異なり、あくまで独身時代のような1人きりの日常の延長を過ごすことが重要です。この時間を持つことで、仕事も家事育児も全て忘れ、何にも属していない自分を見つめ直すことができるといいます。
場所は自宅内の自室ではなく、都内や市内程度の距離、あるいは自宅近くのホテルである点が重要です。自宅の中で空間を区切っても、子供が声をかけてくる、家族の生活音が聞こえる、夫の顔や家のあれこれが目に入るだけでやらなければいけないことを思い出し、集中することができませんでした。しかし、物理的に距離を置くことで、諦めがつき、お互いの存在を気にすることなく、真にひとりになり、完全に母親モードをオフにできるのです。
このように説明すると、彼らは「家族や子供をないがしろにしているのではないか」と感じる方もいるかもしれませんが、そもそも前提として、彼らは「利他的に家族のために過ごすのではなく、自分がいちばん心地よい状態のひとつが家族といる状態」と考えています。
親になっても、仕事も自分の本来やりたかったことも諦めない、ある種の親の自己実現を成し遂げていることが、ミレニアル的なペアレンツ像といえるでしょう。そしてこの価値観を夫婦が共有している点も重要です。
ここから「育児にともなう手間を取り除いた先に得られる、好きなことに収集できる買い物体験」というビジネスチャンスが考えられます。
育児にともなう手間は、自分のやりたいことを忘れさせる原因のひとつといえます。買い物は本来は自分の好きなものを見つめる楽しい時間のはずが、子供をみたり時間に追われながらおこなわなければならないため、いかに簡単に終わらせるかが親にとってのよい買い物の指標になってしまい、結果、買い物体験が楽しいものではなくなっているのです。
たとえば、オムツやトイレットペーパーなどの生活必需品は定期的に届くようにし、買い物に行く際は好きなものだけを買えるようなサービス体験や、IKEAがおこなっている無料託児サービスなどもそのひとつといえるでしょう。
今回調査したハイブリッド・ペアレンツたちは皆、自分の子育てがきっかけとなり、自分の人生を見つめなおし、自己実現を果たしている人たちです。子育てという、ある種コントロール不可能な状態に直面することで、自分の不得意なことを痛感しながらも、それを自分を強くする糧に変換しているポジティブな人びとといえるでしょう。
彼らには「親になったからといってできないことがあるのはおかしい」という共通の義憤があります。これまでは、若いうちに結婚してキャリアを諦めるか、20代、30代はキャリアを追及して、仕事が落ち着いたら結婚、子育てという二者択一でしたが、それを夫婦やコミュニティで協力して解決していこうと考えています。
トライブは、パートナーとのスケジュール共有アプリなどを用いて、仕事のように育児を管理することで、育児と自己実現の両方を実現しています。
もちろん、現在の子育てを取り巻く環境では、すべての人がトライブのようにポジティブに考えることはできませんが、トライブ以外も子育てと自己実現を叶えることができるサービスや商品は、今後ますます求められていくでしょう。
今回はハイブリッド・ペアレンツの分析から、レポートの一部をご紹介しました。ハイブリッド・ペアレンツのトライブレポート本編をご希望の方info@sd-g.jp までお問い合わせください。
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