Written by
広本 拓麻
SEEDATA Technologies

消費行動の統計モデリング #6:市場反応のモデリング

[mathjax]

購買の行動や意思決定にまつわるビッグデータの出現や消費者の多様化が進む中、企業のマーケティング活動においてはミクロな市場に対して理解を深め、的確なインサイトを突いた訴求を実現することが求められています。SEEDATAでは定性的なリサーチに加え、統計モデルを駆使した消費者の理解に取り組んでおり、今回は各種プロモーション施策を評価する市場反応モデリングについて説明していきます。

1. 顕在変数を用いたモデリング


 前回はマーケティングにおける回帰モデルとして、価格掛け率および山積み陳列実施の有無による販売個数をテーマにモデリングを行いました。

消費行動の統計モデリング #5:マーケティングにおける回帰モデルの例

 この中で、時刻(t)における販売個数(目的変数)、価格掛け率および山積み陳列実施の有無(説明変数)をそれぞれ(y_t, Z_t^1, Z_t^2)として、以下のようなモデルを導きました。

$$
begin{eqnarray}
log(y_t) = beta_0 + beta_1 log(Z_t^1) + beta_2 Z_t^2 + epsilon_t  tag{1}
end{eqnarray}
$$

ここで用いられている変数は全て顕在変数と呼ばれ、実際に売り場の状況や供給側の施策を記録していれば確実に得られる量であり、POSデータなどはこの代表です。通常このような顕在変数は、目的変数である販売個数を最大化するためにプロモーションの一環として調整され、売り場の販売員などの暗黙知的な経験によって支えられています。プロモーションを変更することで、その受け手である消費者サイドが変化して発生する現象を、まとめて市場反応と呼びます。販売価格を下げることで販売個数が増えることなどは、市場反応の一例になります。

 市場反応モデリングの目的は、プロモーションの効果を定量的に評価することにあります。式(1)は非常にシンプルな形の式ですが、例えば(beta_0)は時間に依存しない商品のポテンシャルを表しており、価格掛け率の係数(beta_1)は販売数に対する価格の弾力性に対応します。では例としてモデル式(1)と同じように、顕在変数として商品の価格と山積み実施の有無を考え、期間(T_1)と(T_2)でデータを分けた場合の係数(boldsymbol{rmbeta})の結果を見てみましょう。

 これを見ると、二つの期間(T_1)から(T_2)に移る中でベースの販売力は減少しており、商品価格と山積み実施に対する重み(beta_1)と(beta_2)も増加していることが分かります。これら係数の増加は、それぞれの顕在変数に対して、必ずしも同じ意味を持つとは限りません。

 先述のように商品価格の係数は価格の弾力性を表しており、絶対値が大きいほど需要に対して価格が与える影響が大きいということで、極論を言えば(beta_1=0)の時は販売数が価格に依存しないことになります。消費者にとって低関与の商材であるほど顕著ですが、通常は価格が低いほど販売数は増えるので、(beta_1)は負値をとります。

 つまり(beta_1)に関しては消費者に対する価格の感度は減少しており、この間でもし販売数に大きな違いがないとすれば、商品価格以外の別のファクターが重視されるようになったということです。それが山積みから見ることができて、この係数(beta_2)は実施の有無によって販売数がどう変化したのかを反映します。(beta_2)は増加しているので、2つの期間で山積みというプロモーションは効果が上がったことを表しています。さらに(beta_1)と(beta_2)は一見相関して変化しているように見え、価格(プロモーションとしては値引き)と山積み実施は独立した施策ではなく、その間には関係がありそうです。

 ここで重要なのは、式(1)にあるような市場反応モデルは時間変化するものであるということです。このように期間を分けてモデリングを行うのも一般的な手法であり、例えば販促用のPOPを(T_1)と(T_2)で変更するなど行っているならば、期間(T_2)で用いたPOPが消費者に対して効果的に作用していることを表しています。問題は、仮に2つの期間で全くプロモーションを変化させていない場合です。この場合、上記の表のレベルでモデルが変化するのは不自然であり、顕在変数では説明のできないファクターが背後にあることが想定されます。そこで、潜在変数を用いた市場反応のモデリングを導入していきます。

2. 潜在変数を用いた動的市場反応モデリング


 従来の市場反応分析は、式(1)のように顕在変数を用いる場合が大半ですが、このままでは先述の通り市場反応を完全に捕捉できない可能性があります。ここから進んで消費行動についてより深く理解するためには、顕在変数の関係だけでは表現しきれていない構造がないか、といったことを絶えず検討する必要があります。この時、市場反応を発生しうる消費者全体を俯瞰的に想定することは難しいので、「代表的消費者の仮定」をおき、平均的な消費者一人に注目したモデルを立てることになります。

 より高度な分析を可能にする潜在変数の一つに、佐藤,樋口ら[2]が提唱する参照価格があります。これは消費者が購入に際して価格検討をする際に参照する基準となる価格であり、したがって参照価格より高い商品は割高だと感じるという心理をモデルに組み込むことができます。また逆に商品が安い場合でも、消費者が割安に感じる度合いは割高の場合と対称になるとは限りません。したがって式(1)のような価格掛け率を変数にした表式ではなく、新しい変数で市場反応をモデル化する必要があります。また先述の通り、説明変数の重み(boldsymbol{rm beta})は時間に依存して変化することがほとんどであるため、この点も考慮したモデルは以下のようになります。

$$
begin{eqnarray}
log(y_t) = t_t + p_t + (alpha_{1,t}+beta_{1,t}E_t) Z_t^1 + (alpha_{2,t}+beta_{2,t}E_t) Z_t^2 + epsilon_t  tag{2}
end{eqnarray}
$$

 式(2)では、式(1)に比べて時間を表す添字(t)が増えていることに気づくでしょう。これまでベースの販売力とすませていたところは、市場全体の長期のトレンドを考慮した(t_t)と定常自己回帰成分(p_t)に分かれており、この(p_t)とはより短期的かつ周期的に商品そのもので発生する販売力の変化を表します。また先ほど定義した参照価格にまつわる変数は(Z_t^1)と(Z_t^2)に収斂されており、以下のように定義されます。

 (Z_t^1)と(Z_t^2)は、時点(t)における商品の価格(Price_t)と参照価格(RP_t)の関係によって場合分けされており、必ずどちらかしか値を持ちません。参照価格より商品の価格が高い場合、つまり(Price_t>RP_t)の時は消費者にとってはロスがある状態のため、ロス変数と呼ばれます。逆に商品の方が安い場合はゲイン変数です。また価格に関するプロモーションと棚積みは相関があるとしたように、クロスターム(beta_{1,t}E_t Z_t^1 )と(beta_{2,t}E_t Z_t^2 )が存在します。潜在変数を用いれば、式(1)では特定できなかった販売力の変動の原因を探ることができるようになります。

まとめ


今回は市場反応の紹介と、そのモデル化について説明しました。その中で顕在変数を用いたモデル化と、顕在変数では表現できないような現象について触れ、顕在変数によるモデルの一例として参照価格を説明しました。

参考文献
[1] ビッグデータ時代のマーケティング, (著)佐藤忠彦,樋口知之,講談社 理工学専門書
[2] オペレーションズ・リサーチ「マーケティングにおける結果データ動的活用のためのベイジアン・モデリング」, (著)佐藤忠彦,樋口知之,(2010).

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