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SEEDATA
公開日:2018.09.08/ 更新日:2021.06.09

グローバル(global)

海外進出と中国のいま~中国視察レポート②

今回は前回に続き、海外進出を考えるうえで外せない中国の今を、7月に行った中国視察の様子もとにレポートいたします。今回はキャッシュレス化が進む中国の小売店舗の現在についてご紹介します。

海外進出と中国の今~中国視察レポ①

中国人の好奇心を刺激する上海のロボットレストラン

上海では、前回ご紹介した杭州の生鮮スーパー・盒馬鮮生(ヘマーシェンセン)の系列店であるロボットレストランを視察しました。お客が選んだ食材をキッチン調理し提供するという中国の伝統的なスタイルですが、そこにロボットという要素を取り入れています。

ロボットレストランの隣に併設されている盒馬鮮生にて食べたい食材を選び、店員さんに渡した後、食材が調理場へ運ばれます。

調理は人間が行っていますが、出来上がった料理はロボットの上に乗せら、まるで回転寿司のように席まで運ばれてきます。

盒馬鮮生でも頭上のレーンで荷物が運ばれていましたが、とにかく中国では「目新しさでお客の興味や好奇心を満たすこと」、そして「(レーンで荷物を運ぶ事例のように、)効率化できるところは全て機械に代用させること」という戦略が成功しているのではないでしょうか。

効率化の波は街中の個人経営店にも

同じ飲食店関連の話でいいますと、街中でフラっと入る個人経営のお店にも効率化の波が押し寄せています。

こちらのお店では席に着いた後、店員さんは注文を聞きにきません。

なぜならばテーブルの上にQRコードがあり、こちらをアリペイかWeChatペイでスキャンすれば、スマートフォン上にお店の全メニューが表示されるからなのです。

これで「注文を聞く」「料理を運ぶ」「テーブルの片付けをする」「決済をする」というホールの4つのメイン業務のうち、半分を自動化することを実現しています。

お店にとっても回転率の上昇や、紙媒体のメニュー表のコストカット、メニューの種類や値段をいつでも変更可能といったメリットを享受でき、お客さんにとっては店員をいちいち呼ばずに好きなタイミングで注文ができ、なおかつ注文をした瞬間に決済が完了されるため、非常に時間を節約できます。

また、テンセントが経営するWeChatペイで支払いを行うショップでは、欲しい商品を手にとり、店舗内に設置されている機械の画面上でスキャンを行えば、店員さんと話すことなくそのままお店を出ることができますが、日本人にとってはまるで「万引きしているように感じる」購買体験でした。

中国では最近、以前記事でご紹介した芝麻信用(ゴマ信用)が広がっており、信用数値が高ければ高いほどさまざまなメリットを享受でき、逆に低ければ信用がなくなり自分に不利益になるという仕組みが広がっているため、本当に万引きされるリスクが減っているのかもしれません。

さらに、その後訪れた簡24というコンビニのようなショップでは、入り口のゲートを入る際にあるカメラに自分の顔を認識させれば、スマホ画面のタッチなどもせず入店することができます(初回入店時のみWeChatペイを表示させる必要あり)。

店内にはたくさんのカメラが設置されていて、欲しい商品があればカメラに見えるように手に取りお店を出れば、会計などをしなくても自動で決済されるというシステムになっています。

中国でキャッシュレス化が進んでいるのはC2Cのオンラインペイメントサービスが普及しているから

2日間、上海と杭州で視察を行いましたが、キャッシュレス化は進んでも、完全に店舗の無人化にはいたっていないという印象を受けました。

テンセントのスーパーも盒馬鮮生も、お客側がまだキャッシュレスに慣れておらず、画面上には使い方が表示されていても、店員による説明が必要でした。

しかし、キャッシュレス化の波は止まることなく、今後も中国全土で普及していくでしょう。

中国でこれほどキャッシュレス化が加速した理由の一因として、アリペイやWeChatペイはB2CではなくC2Cのサービスであるということが考えられます。一般的なクレジットカードなどは手数料ビジネスで、支払のタイムラグなども生じますが、これらのサービスは手数料もなく、瞬時にお金が送金されるため、店舗も個人も導入しやすかったのではないでしょうか。

(アリペイやWeChatペイは個人がどう行動をし、どういったタイミングで何を購入するか、すべてのデータを抽出することでデータビジネスを行っています)。

また、今回の取材中、杭州で生活する日本人の方とお会いし、中国でキャッシュレス化が進む理由についてお話をお伺いしたところ、金銭的なインセンティブがあげられました。そもそも、アリペイに現金を預けると1年で4%(2018年8月現在)増える仕組みになっています。日本の銀行などと比べてもかなりよい利率のため、人々はどんどんアリペイを利用するようになり、キャッシュレス化が加速しているのではないかと話してくれました。

実際に視察中に訪れた中国の店舗では現金の使えない店も多くあり、あっても現金用のレジの台数は少ないという状況でした。

日本でも最近はLINEペイなどのオンラインペイメントサービスはありますが、中国ほど広がっていないという現状があります(※当記事は2018年夏に書かれたものです)。

その背景として、ひとつは先ほどあげたように、無人店舗でレジを通さずに出るという行動が、心理的に万引きをしているように感じてしまうという点があげられます。

また、全体としてまだまだ現金社会なので、たとえコンビニなど一部店舗がキャッシュレス化しても、全業界がキャッシュレス化に舵を切らなければ、中国のように浸透していくことは難しいでしょう。

しかし、今後、アジアや海外進出を考えるうえで、中国のキャッシュレス化の実態を無視することはできません。

【この記事の監修者】

王銘浩。SEEDATAアナリスト。

SEEDATAアナリスト業務からSD/SAでのアジア研究業務、SD/Vでのインキュベート業務など、幅広く携わる。

鉄道会社の新規事業開発支援、出版メディア会社の新規事業開発支援、大手インフラ会社の新規事業開発支援、大手エレクトロニクス会社の製品販売戦略構築支援などを経験。