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SEEDATA
公開日:2018.08.13/ 更新日:2021.06.09

グローバル(global)

海外進出と中国のいま~中国視察レポート①

これまでの連載では、海外進出を考える日本企業さま向けのSD/SAのアジアトライブリサーチの内容や、アジアでのインタビューの心得といった方法論、事例を紹介してきましたが、今回は2回に渡って2018年7月上旬に我々が行った上海視察で得た情報をお届けします。

今回の視察の目的は、中国で独自の進化をとげる最新店舗やサービス、それに伴って生まれる日本ではまだ見られないような先進的な購買体験を体験してみるということでした、本視察のキーワードとして、O2O(オフラインtoオンライン)、無人店舗、シェアリングエコノミー、信用経済、キャッシュレス社会、エンゲージメント4Pなどを掲げながら現地を訪問しました。

視察を行ったのは、中国の経済の中心である上海と、上海から高速鉄道で1時間ほど南にある杭州(こうしゅう)です。第一回目の今回は、この杭州とそこで我々が感じたことについてご紹介したいと思います。

アリババが進めるニューリテール戦略

杭州は中国のIT企業であるアリババが本拠地を構える都市で、紅いシリコンバレーと呼ばれるようになった深センなどと並ぶ成長著しい都市です。アリババについては、何度かこの連載の中でも言及していますが、Amazonのような巨大ECサービスであるタオバオを運営する中国企業で、WeChatというLINEのようなメッセンジャーサービスを展開している企業テンセントと双璧をなす中国の巨大IT企業のため、海外進出を考える企業のみなさんは当然のことながら、ご存知の方も多いのでないでしょうか。

アリババは、アリペイという電子決済サービスを提供しています。銀行口座やクレジットカードの情報をアリペイのアカウントと紐付けるだけで、飲食店やコンビニなどの店頭での支払いはもちろん、公共料金の支払いや友人の口座への送金などができる非常に便利なサービスです。今日においてはほとんどの中国人がアリペイでの電子決済を行うため、都市部では現金支払いを受け付けないお店が出現するほど、こうしたモバイルペイメントサービスは現地の人の生活に浸透しています。(アリペイに関するより詳細な情報が気になる方は検索してみて下さい)

ECやペイメントサービスなどのオンラインサービスを軸に様々なサービスを展開してきたアリババですが、2016年末にはニューリテール構想(新小売構想)を発表しました。アリババCEOのジャック・マー氏は「オンラインビジネスは今後10年から20年でなくなり、オンラインとオフラインの融合のニューリテールが誕生する。」と述べています。

オンラインの購買体験は、商品を手にとって確認することができないという顧客体験における課題を抱えている一方で、実店舗の販売には、店の管理費や人件費、在庫管理切れリスクの管理などのコストが懸かるために、効率性という観点ではECには及びません。こうしたオンラインとオフライン販売におけるそれぞれの課題を、両者を融合させることで解決しようとする試みがニューリテール構想です。2018年6月に東京で行われたアリババグループのユニーク・ソング氏の講演では、「テクノロジーで、顧客-店舗-商品におけるビジネスモデルを再構築することで、消費体験の向上と企業運営の最適化を図り、新しい成長に導くこと」が、ニューリテール構想だと定義されています。

O2O(Online to Offline)からOMO(Online Merges Offline)へ

こうしたアリババが推し進めるニューリテール構想を捉えるためには、オンラインからオフラインへと送客することを意味する「O2O」という言葉ではなく、オンラインとオフラインの融合を意味する「OMO」という言葉で形容するのが自然だと捉えられるようになっています。リアル店舗での買い物時に、オンラインショッピングで体験するような利便性が加わるのです。中国の超先進部においては、オンラインとオフラインでの購買体験の境界が薄れつつあります。

杭州には、アリババが主導するOMO型の購買体験を提供する小売店が複数存在しています。今回私たちが訪れたのは、その中でもアリババの英知を集結して作れたショッピングモール「亲橙里(チンチェンリー)」。モール内には、さまざまなテクノロジーを駆使した小売り店が集まっていますが、その目玉が盒馬鮮生(ヘマーシェンセン)という生鮮スーパーです。

アリババのニューリテール戦略を体現するOMO店舗:盒馬鮮生(ヘマーシェンセン)

盒馬鮮生は、中国各地で現在約30店舗ほど展開されており、これからますます人々の日常生活の中に浸透していくと考えられます。一般的なスーパーと比べて、この盒馬鮮生が持つ4つの特徴を顧客体験の視点からご紹介致します。

1:キャッシュレスな支払い体験

盒馬鮮生での買い物をするためには、盒馬鮮生専用のアプリをダウンロードする必要があります。アリペイのアカウントと同期させたら、買いたい商品を無人レジで登録した後に、アプリで支払いをすることができます。日本と比べても、この動作自体にそこまで目新しさはありませんが、アリペイアカウントと紐付いているために購買した商品の履歴がアカウントに反映されます。オフラインの小売店で買い物をしながら、決済はオンラインで行います。

2:商品の詳細情報の提示

盒馬鮮生の陳列棚には、各商品ごとにバーコードの付いた値札がついています。このバーコードをアプリで読み込むことで、その商品に関する詳細な情報にアクセスすることができます。日本でも気になる商品が眼の前の棚にある場合は、スマホを開いて、Amazonなどで商品名を打ち込んで評価を調べたりしますが、そうした体験をよりシームレスに、そして自前のプラットフォームで完結するように設計しています。オンラインで検索するように、リアル店舗で商品を閲覧しています。

3:リコメンデーション

バーコードを読み込んで情報を見た商品、あるいはアプリ上で買い物かごに入れた商品に関しては、関連するおすすめ商品が提示されます。体験としては、Amazonで商品を買ったときに「この商品を買った人はこんな商品も買っています」とおすすめされる感覚と同じで、今いる物理的な店舗にある関連商品が紹介されます。こちらもリアル店舗にいながら、Amazonで買い物をしているかのような購買体験を感じる瞬間です。

4:5km30分以内のデリバリーサービス

盒馬鮮生では、店舗から5km以内の場所に家があれば、購入した商品が30分以内で配送されるという配送サービスも行っています。そのためアプリで人員を割かずに上述したような購買体験を提供しつつも、注文された商品を棚から集めて配送準備をするためのスタッフがたくさん売り場で働いてます。つまり、人々が来店して買い物をすることができる小売店でありながら、来店せずにECとして購入する人のための倉庫の役割も担っているのです。

以上の4つが顧客の視点から見たときの盒馬鮮生の大きな特徴です。この4項目だけ見ると、大げさなことはやっておらず、意外にシンプルな機能だと感じるかも知れません。ただオンラインでの購買に伴う利便性を、違和感なくオフラインのリアル店舗での購買体験と融合させて、それを実現させている点に、ニューリテール構想を体現する店舗として、この盒馬鮮生に価値があるのだと思います。OMOに関しては、米国のAmazonGoが話題になって久しいですが、こうした中国の動向からは目が話せません。

次回は、アリババに限らず、私たちが実際に上海で訪れた小売店舗での体験についてご紹介したいと思おます。海外進出、中国進出を考える企業の担当者さま必見です!

【SEEDATA ASIAにてリサーチをすることができるアジアの国や都市一覧】

東アジア地域:中国(北京、上海、杭州、深圳などの主な都市部)、台湾、香港、韓国

東南アジア地域:タイ(バンコク・チェンマイ)、インドネシア(ジャカルタ)、ミャンマー、カンボジア、ベトナム、シンガポール、マレーシア、フィリピンなど

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SEEDATAでは、独自に定義した先進的な消費者群(=トライブ)のリサーチを通じて、企業のイノベーション支援を行っています。

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